AEDIO-3
70 W ステレオ・パワーアンプ
はじめに
AEDIO-3パワー・アンプは、大出力とディテール再現能力の両方を狙って設計しました。一般的なハイパワーアンプでは、コレクタ損失の大きなパワートランジスタを並列使用するのですが、まず、パワートランジスタがよくない。細かな音を隠してしまい“のっぺりとした“トランジスタ・サウンドにしてしまう。それに加えて、パワートランジスタの並列使用がよくない。一聴するとメリハリがあるようですが、やたらとにぎやかにしてしまい、これまた、荒い音にさせてしまいます。
一連のパワーアンプは、どこまで小出力アンプのディテール再現能力を保ったまま出力をアップできるかの挑戦でした。そこそこの音にはなったと感じています。
回路
AEDIO-3の電圧増幅段には、新日本無線MUSES 02をパラレル接続で使用しました(第1図)。ドライバ段への電流を確保するためです。常識的にはできない接続ですが、MUSES 02は内蔵するふたつのチップの特性が揃えられているため、このような使い方も可能となります。それでも、入力バイアス電流とオフセット電圧のために、二つのチップに出力されるオフセット電圧は異なります。それを無理矢理、加算していますので、実測では、2チャネルのオペアンプの出力それぞれに、オフセット電圧が数十mV現れました。その状態で、それぞれにフィードバックを戻しているのでバランスして、出力でのオフセット電圧は20 mV以下となっていました。
音はよかったのですが、無理な設計だと思われたので、記事にはしませんでした。それでも、製作より8年間、問題なく動作していたのですから、無理な構成ではなかったと考えられます。
いまでしたら、こんな面倒なことをしないでもMUSES 03を使えば、1個で足ります。過去の設計ですね。そのほかの回路定数、ゲインと位相などの設計に関しては2010年9月の説明をご覧ください。
第1図 AEDIO-3アンプ回路
ドライバ段には東芝A1930 / C5171を使用しました。バランスのよいクリアな音を聞かせてくれるペアです。出力段には、サンケンのLAPTマルチエミッタトランジスタA1386 / C3519を用いました。このクラスのパワートランジスタとしては、極めて解像度の高い音を再現してくれます。いずれのトランジスタも比較試聴を繰り返して選んだものです。
アンプの出力段は、一般的なエミッタ・フォロワではなく、エミッタ接地としました。エミッタ・フォロワの鈍い音を避けるための構成です。ここで最大出力を稼ぐためエミッタ抵抗を極小としていますので、この2段のゲインが大きくなりすぎます。このため、出力にシャント抵抗を用いると同時に、マイナーフィードバックを併用しました。このシャント抵抗は音の透明感に効きます。抵抗値は下げるほうが音の線が太く、クリアに聞こえますが、同時に最大出力を減じてしまいます。また、シャント抵抗の質が音に効きます。ここでは50Ωとして、NS-10を使用しました。
アンプ回路の中では、入力抵抗とフィードバック抵抗も音に大きく影響します。これらはNS-5を、そのほかの抵抗はNS-2を使用しました。
出力には発振防止回路を入れてあります。写真AにNS-5に巻いた18ターンのコイルを示します。
写真A 発振防止コイル
電源は左右独立とし、さらにそれぞれの電圧増幅段とパワー段、それぞれプラスとマイナスを独立とした8トランス構成です(第2図)。独立トランス構成は、左右だけでなく奥行き方向にも広い音場感と明確な定位感を聞かせてくれます。
第2図 電源回路
構造
すべてのトランジスタとMUSES 02は、20×20サイズの真鍮角棒で挟み込み、徹底した防振対策を施しています。明確な音像と、音の隙間のない密度感は、この振動対策によって実現しています。回路構成的には2010年9月と比べてMUSES 02がパラレルになっているところくらいしか違いませんが、音的には、別物といえるくらいに違いました。
その秘密が真鍮角棒を用いたサンドイッチにあります。サンドイッチの裏側を写真Bに示します。このブロックは、AEDIO-3のものではなく、他の試作で音が悪かった失敗品ですが、真鍮のパンの間にチーズのようなトランジスタが挟まれているのが見えます。
写真B 真鍮基板例
パワートランジスタは、ヒートシンクによって音が変わります。爪ではじいて鳴らないヒートシンクがよい。どうも、このはじいたときの共振音が付け加わるように聞こえます。でも、あのフィンが並ぶ構造では、どうしても可聴帯域でQの高い共振周波数を持ちます。ここを真鍮棒にすれば、共振周波数は可聴帯域を超えて、遙か彼方の超音波領域です。それから、ヒートシンクでは片面だけが押さえられるのですが、真鍮棒サンドイッチにすると両サイドから防振されます。この効果がまた大きい。
小信号用トランジスタも同じように効果が聞こえます。AEDIO-1で試みましたが、音像が明確になり、重心が下がったかのようながっしりとした音になります。それなら、オペアンプにも効果があるはずと考えて、MUSES 02は写真Cに示すように、紙エポキシのユニバーサル基板に足を広げた状態で引出線を取り付けて挟みました。こうすると、TO-92パッケージとほぼ厚みが等しくなります。当然、わずかな厚みの差はありますので、放熱用の0.5 mm のシリコンシートをクッションとして一緒に挟み込んでいます。
写真C MUSES 02はこうやってサンドイッチの具にした
効果は、予想どおりでした。トランジスタの時と同じ方向の改善です。まあ、予想しているから先入観に支配されているかもしれませんね。でも、これはよい。ただし、組み立てるのはめちゃくちゃ面倒です。その後はサボっていてやっていませんが、いま、写真を見ながらこの文章を書いていて、新たな方法を思いつきました!
シャーシ全景を写真Dに示します。
写真D シャーシ全景
特性
最大出力は4Ω負荷にて約70 Wです。第3図に4Ω負荷での周波数特性を示します。10 Vrms以上ではスルーレートによる振幅制限がみられますが、3.2 Vrms以下では観測されません。-3 dB点は約300kHzです。
第3図 周波数特性(4Ω負荷)
第4図に4Ω負荷でのひずみ特性を示します。最大出力は約70 Wです。10 kHzと20 kHzでのひずみが4 W付近で増えていますが、何らかの動作モードの違いがあると思われます。聴感上のひずみ感は、まったくありません。
第4図 ひずみ特性
おわりに
8年ぶりに戻ってきたAEDIO-3を整備しましたが、これだけの音で鳴っていたのか、とあらためて認識しました。我が家の常用機Parallel World 4よりも低域の音像構成感では優っています。この低域感をパラレル・ワールドで超えることが次の目標です。
(製作 2011年1月、記 2019年2月)