シャント・レギュレータ採用
EVR-323OS-00-R0
ヘッドホン・ドライバの製作
はじめに
EVR-323-03-AC電子アッテネータとEVR-320-8820-NC電子アッテネータは、どちらもヘッドホン端子を備えていました。しかし、端子はEVRの出力をモニタするためのものであり、専用の回路を備えたものではありません。
EVR-320-8820-NCに搭載したMUSES 8820では、ヘッドホンは負荷が重いというか、音に伸びやかさがありません。これに対してEVR-323-03-ACでは、オペアンプとは信じられないくらいにしっかりとした音像を聞かせてくれます。それでも、16~55 ΩのヘッドホンはMUSES 03にとって軽い負荷ではありません。ですので、出力をさらにパワーアップすべく欲張りました。
構成
EVR-323-03-AC電子アッテネータと同じく、タカチUC16-5-22ケースに収めることを条件としました。ところが、これがキツい。完成したシャーシ(写真A)を眺めれば、簡単に収まっているようにも見えるのですが…。ここに至るまでに4枚シャーシを作り直しました。
写真A シャーシ全景(まだデッド・マスは載せていない)
第1図に信号系の接続を示します。EVRは、OS-CONをカップリングに使用した限定グレードそしてバッファなし、レギュレータなしのEVR-323OS-00-R0(写真B)です。電子ボリュームIC、MUSES 72323の出力はMΩオーダー以上のハイ・インピーダンスで受けなければゲイン・エラーが増加する上にひずみも増えてしまいます。通常はEVRのバッファ基板のオペアンプで受けるのですが、そのバッファをヘッドホン・アンプ基板SKHP-03E2のMUSES 03に肩代わりさせます。
第1図 信号系接続
写真B EVR-323OS-00-R0
第2図にSKHP-03E2基板の回路を示します。左右のチャネルそれぞれにMUSES 03非反転アンプを2パラにしたヘッドホン・アンプ専用基板です。2017年11月号ヘッドホン・ドライバと同じ回路ですが、基板パターンの見直しによって改善を図っています(写真C)。フィードバック抵抗は390Ωと3.9 kΩとして、20.8 dBのゲインとしました。使ってみるとゲインが大きすぎましたので、1.5 k~2.2 kΩと3.9 kΩ(8.9 ~ 11.1 dB)とされるとよいでしょう。最終的に1.8 kΩとして、10.0 dBのゲインとしました。
また、MUSES 03オペアンプを最良の音で使うためには、抵抗値が重要です。出力と反転入力の間の抵抗値は3.9 kΩまたは4.3 kΩとします。抵抗値を下げすぎると詰まった音になり、これより高くするとNS-2Bの巻線サウンドがしゃしゃり出ます。MUSES 03も電源投入時のショックノイズがありますので、基板にはノイズ防止用リレーを備えています。
第2図 SKHP-03E2 ヘッドホン・アンプ基板回路(このほかにショックノイズ防止回路付き)
写真C SKHP-03E2ヘッドホン・アンプ基板
SKHP-03E2基板の厚みは2.0 tです。わずかな厚みの差ですが、一般的な1.6 tではペラペラのように感じてしまいます。楽器の定位感向上には、電子回路を振動させないことが重要です。そのためには、基板の厚みと真鍮シャーシ、半導体素子へのデッド・マスが効きます。
電源系の構成を第3図に示します。EVR-323OS-00-R0はレギュレータ・レス・タイプですので、デジタル系は+5 Vを供給します。SKEVR-VDD基板に豊澄HP-510、整流ダイオード、三端子レギュレータNJM7805SDL1を載せて+5 Vを作ります。
アナログ系電源は、BLOCK FL 6/15をプラスマイナス独立電源トランスとして、整流ダイオードにはJRC NJD7002を、電源フィルタはニッケミKMH 25V15000μFを使用します。EVRへはシャント・レギュレータ基板SKVL_5を介して電源供給するのですが、SKVL_5は同時に電圧リミッタとしても動作させています。この構成に至るまでに、3ヶ月の変遷を経ました。
第3図 電源系の構成
レギュレータの変遷
第4図(a)シリーズ・レギュレータは却下した案です。この回路の設計者は「シリーズ・レギュレータの音が嫌いだ」とワガママをいいます。彼の数少ない比較試聴経験では、シリーズ・レギュレータよりもシャント・レギュレータのほうが、色づけの少ない音でした。EVR-323の開発に際してもシャント・レギュレータを採用したいと考えましたが、放熱が無理なために諦めていました。ですので、ヘッドホン・アンプ基板にまでシリーズ・レギュレータを用いることはやりたくありません。
第4図(a) 却下したシリーズ・レギュレータ×2案
とはいえ、電源電圧はできるだけ高くしたほうが、MUSESオペアンプの透明感をアップできます。ですから、電源トランスにBLOCK FL 6/15を用いるのですが、無負荷時にMUSES 03の絶対最大定格±19 Vを超えてしまいます。そこで、第4図(b)の電圧リミッタを用いました。2019年1月号のパワー・アンプで採用した方式です。この方式は、レギュレータ固有の音を感じさせません。いいです。
第4図(b) 電圧リミッタ+シリーズ・レギュレータ
音は悪くないのですが、MUSES 72323の電源に、電圧リミッタとシリーズ・レギュレータの二つを通すのが気に入りません。アンプを縦続接続すると、それぞれのカラーが重なって鈍い音になります。レギュレータも同じではないか、との疑念が湧いてきます。ですので、シャント・レギュレータにしてヘッドホン・アンプ基板だけに供給しました。第4図(c)の構成です。こちらのほうが、音の立ち上がりがよいというか、スキッとした音になります。
第4図(c) シリーズ・レギュレータ+シャント・レギュレータ
そうこうしているうちに、またひとつ思いつきました。EVR-323のシリーズ・レギュレータを外して、EVRとヘッドホン・アンプ基板の双方をシャント・レギュレータでドライブする構成です(第4図(d))。レギュレータが一つになることはデメリットかもしれませんが、シリーズ・レギュレータがシャント・レギュレータに代わることはメリットと考えます。シャント・レギュレータを二つに分ければ、さらによくなるでしょうが、それならば電源トランスから分けたい。ですけど、ケースにその隙間はありません。
まあ「どちらがよくなるか」などと考えていても、わかるはずがありません。聞くしかないでしょう。シャント・レギュレータ基板SKVL_5も作りました。試すと、鮮明さというかクッキリ感で優ります。
第4図(d) 共通シャント・レギュレータ
ところで、MUSES電子ボリュームは、電源リプルにメチャクチャ弱いことを経験していました。わずか20 mVp-pのリプルでも、カサつくというか、シャリシャリした音が顔を出し、実力を隠します。ですので、第4図(e)の構成はダメだろうと考えました。電圧リミッタは最高電圧を制限するだけで、リプルは減少させないからです。
ですけど、抵抗2本を短絡するだけで試せます。念のため、と思って試聴しました。正直なところ、思ったほど悪くはありません。(d)のシャント・レギュレータとの差はわずかです。というか、かなり似通った音です。まあ、ほとんど同じ回路なのですから。ただ、中域にクセを感じます。ところが、最低域は制限から解き放たれるというか、ゆったりと鳴ります。
第4図(e) 共通電圧リミッタ
さて、第4図(d)のシャント・レギュレータですが、このときにはヘッドホン・アンプ基板にも電流を供給できるようにしていました。つまり、シャント電流を大きくとっていました。結果的に、シャント・レギュレータは上流側である整流電圧をリミットします。
それなら、第4図(f)のようにMUSES電子ボリュームにだけシャント・レギュレータから供給する構成とすれば、電圧リミット効果を利用してヘッドホン・アンプ基板に過大電圧を加えないことも可能です。もちろん、試聴しました。全帯域で音が伸びやかになったように感じられます。やっとこれで、構成が決まりました。
第4図(f) シャント・レギュレータ+無安定
ハムノイズとの戦い
シャーシを何度も作り直したもう一つの理由が、ハムノイズでした。電源トランスBLOCK FL 6/15をSKHP-03E2基板に近づけると「ブーン」と電源周波数が聞こえます。FL 6/15(写真D)はカットコアですが、同クラスのEIコアよりも漏洩磁束が大きいようです。同じ位置関係としても、デジタル系に用いたHP-510では「ブーン」は聞こえません。
写真D SK_FL_small 基板に載せた Block FL 6/15トランス
症状は、アッテネータの設定にかかわらず、ノイズレベル一定です。電源スイッチをオフにすれば消えます。電源トランスFL 6/15からヘッドホン・アンプ基板SKHP-03E2とその周辺への誘導と考えられました。バラック状態のときには、トランスと基板が離れていたためめでしょう、ハムノイズは聞こえませんでした。
まずは、FL 6/15とSKHP-03E2が最大限離れるようにシャーシを作り替えました。たしかに、「ブーン」は減りました。でも、まだ聞こえます。その場で電源トランスを横倒しにするとノイズレベルは下がります。しかし、横倒しにするには、ケースの高さが不足です。あと5 cmも遠ざければ聞こえなくなるのですが。それでも、なんとかしてUC16-5-22ケースに押し込みたい。
もっとも影響を受けるのはEVR-323からSKHP-03E2基板へのラインです。ポリエチレン線をきっちりと撚っていないとノイズは増えます。それなら、と同軸ケーブルを試すと「ブーン」のレベルは下がります。ですが、めちゃめちゃハイ・インピーダンスの区間です。強烈な同軸キャラクタがつきまといます。キンキンとしたピーキーな音です。耐えられない。
2021年3月号で使ったEIコアにすれば、「ブーン」はなくなります。あるいは、2019年3月号で用いた“トランスonケミコン”でも、「ブーン」は聞こえません。しかし、どちらもFL 6/15と比べれば、ヴェールをかぶったように霞みます。ここは、FL 6/15でなんとかしたい。
いろいろと試みましたが、アムトランスの0.4 mmツイストペア線を用いて「ブーン」をほぼ聞こえないレベルにまで抑え込みました(写真E)。この線は被服が0.25 mmと薄く、きっちりと撚ってあるため誘導を受けにくいと考えます。
写真E EVRからSKHP-03E2基板へのツイストペア配線
シャント・レギュレータの設計
ヘッドホンの能率とインピーダンスを調べたことがあります(第1表)。それぞれのヘッドホンでインピーダンスが異なるため、あるものは電圧を必要とし、他のものは電流を必要とします。ヘッドホン・ドライバとの看板を掲げるからには、この表の範囲くらいはドライブできるようにします。
第1表 ヘッドホン仕様例(まったく適当に集めた機種であり、他意はない)
ちなみに、第1表でのピーク電圧と電流は、出力115 dB SPL出力時を計算したものです。その115 dB SPLとは、連続して聞いていると難聴になるレベルです。試しに聞きましたが、耳が痛く、我慢できるレベルではありません。これだけのパワーを連続して入れることはあり得ません。あくまでも、ピークの値として考えます。
私のAKG K242は、もっとも電流を必要とする機種です。それでも、ピークで100 mA足らずです。MUSES 03なら1個でも十分ドライブできる範囲です。十分でないのは、電源トランスのほうです。
第5図にFL 6/15トランスを用いた整流回路の電圧・電流特性を示します。AC電圧103 Vで200 mAを流したときには、整流電圧は14.6 Vくらいまで下がります。ですので、シャント・レギュレータの出力電圧をこのくらいに設定する手も考えられます。ですが、音質面からは、MUSES電子ボリュームの電源電圧をできるだけ高くしたい。
第5図 FL 6/15トランスを用いた整流回路の電圧・電流特性
ところで、信号波形のピーク値と実効値の比をクレストファクタとよびます。たとえば、サイン波ではピーク値は実効値の√2倍ですから、クレストファクタは1.41です。デジタル・オシロスコープで観測すると音楽信号ではロックでもクラシックでも、ピーク1 Vのときに実効値が0.2 Vに達することはありません。つまり、クレストファクタは5より大きい。
クレストファクタを5とすれば、ピーク値100 mAで実効値は20 mA。ステレオで40 mAです。これにMUSES 03を4個とMUSES 72323のアイドリング電流(最大値)の合計50 mAを加えた90mAを最大の平均電源電流と考えます。設計上の最低AC電圧を95 Vと考えると、最大平均電源電流時に平均整流電圧は±17.3 Vとなります。この条件でのリプル電圧は40 mVp-pでしたので、リプル圧縮のためこれ以上の降下幅として0.2 Vを確保するように設計します。シャント・レギュレータ自身の消費電流を2 mA、MUSES 72323は最大振幅時も電流はそれほど増えませんのでアイドリングの1.5倍として、合わせて17 mA。0.2 Vを割って、直列抵抗は10 Ωとします。
第6図にシャント・レギュレータ基板SKVL-5の回路を示します。プラスとマイナスは同じですので、プラス側で説明します。R1とR2を用いて出力電圧は、
です。標準でNJM7400のレファレンス電圧VREFは2.465 V、IREFは2 μAですから、R1 = 36 kΩ、R2 = 6.2 kΩとすればVOUT = 16.85 Vです。ICと抵抗の誤差が最大で、電圧がもっとも高くなる組み合わせではVOUT = 17.55 Vとなりますが、±1%の抵抗の誤差はその1/3くらいに収まりますし、極端な組み合わせになる確率は低いですから、半導体の誤差のみと考えれば17.19 Vです。なんとか設定範囲です。
第6図 シャント・レギュレータ基板SKVL-5の回路
一方で、AC電圧が高い場合を考えます。第5図に示したようにFL 6/15では、入力電圧AC109 V で出力直流電流160 mAのときに整流電圧は±17 Vとなります。ですから、シャント・レギュレータは160 mAを流せれば十分です。基本的にシャント電流はすべてTR1を流れますが、R7 での消費を多くした方がクッキリとした音になりますので、100Ωとします。R7は最大で2.6 Wの消費になりますから5WのNS-5を使用します。また、TR1の損失が最大となるのは、80 mA流れるときで約0.7 Wです。ヒートシンクなしでは厳しいので、TR1とTR2はシャーシに固定します。
ここで、直列抵抗R9の消費電力は0.2 W以下です。ですので、1/2 Wの金属被膜抵抗で容量的には十分です。でも、SKVL-5基板にはNS-2Bを挿入できるスペースがあります。入るからには、試さない手はありません。で、音は、わずかですが、NS-2Bのほうが伸びやかになります。「これくらいの差なら」とは思いましたが、最終的にNS-2Bを入れています。
組み立て
使用部品を第2表に示します。参考までに購入店と価格を示します。価格は税込みと税抜きが混在していること、また、価格変動もあると思います。ご容赦ください。それから、ラジオ技術誌に掲載した部品表の赤字の箇所が間違っていました。お詫び致します。
電源スイッチは12 Vタイプのランプを用います。これにSKEVR-VDD基板から8 Vくらいを供給して点灯しています。IDECのランプに定格電圧を加えると、明るくなりすぎます。
第2表 使用部品
ケースは、タカチUC16-5-22DDです。フロントとリアのパネル加工を第7図に示します。ケース加工とパネル印刷は、同社カスタム事業部に依頼しました(写真F)。
第7図(a) フロントパネル加工図
第7図(b) リアパネル加工図
写真F タカチUC16-5-22DDケースに実装したヘッドホン・ドライバ
それぞれのパネルには、真鍮3 t×40 mmの平角棒からサブパネルを作製しました(写真G)。真鍮サブパネルを侮っては(音を)しくじります。ヘッドホンジャックもRCAジャックも、接点の材質とメッキ、それを支える構造によって音は変わり、さらに、そのジャックを支えるパネルによっても音は変わります。5 tのアルミよりも、3 tの真鍮のほうが重いためでしょうか、音のざわざわした感じを減らし、よりクッキリとした音像を聞かせてくれます。パネルとサブパネルの接着は瞬間接着剤が早いのですが、ズレたときが悲惨ですので、エポキシ接着剤を使ってクランプで挟んで固まるのを待ちましょう。注意点ですが、EVR-BALCONの赤外線レシーバがデジタルGNDになっているため、これがサブパネルに接しないようにします。ここが接するとハムノイズの原因となります。
写真G フロント・サブパネル
シャーシ加工を第8図に示します。サイズは、3 t×200×143 mmです。真鍮シャーシの音を知ってしまうと、アルミには戻れません。重心が下がるというか低域の量感が異なります。穴はすべてM3のタップ加工をします。シャーシは、タカチUCK-P27金具のシャーシ側のネジ山を3.2 mmドリルでつぶして、高さを合わせるためにUCK-P27とシャーシの間にM4スペーサ(0.7 t)を入れて、ケースの下カバーに載せた状態で、M3×5の低頭ネジ(モノタロウ、41746573)を用いて固定します。
第8図 シャーシ加工
かなり詰め込みましたので、シャーシをケースに収めた状態では配線が難しいです。ですので、シャーシをケースに入れてUCK-P27金具をきっちりと固定して、ケースから取り出してスペーサを取り付けてから配線します(写真H)。
写真H 金具とスペーサを取り付けた真鍮シャーシ
SKVL-5を除く基板の取付けには5 mmスペーサ(廣杉計器、MSB-305-03E)を用います。とくにSKHP-03E2基板は、デッド・マスの高さが関係しますので、必ず長さ5 mmとします。MSBスペーサは、ネジの長さが3 mmですので、シャーシ底面に突き出すことなく取り付けられます。
SKVL-5基板は、基板下面にNS-5を取り付けるため10 mmスペーサ(MSB-310-03E)を使用します。写真I に示すように、シャーシにスペーサを取り付けて、そこにSKVL-5基板を固定し、2SA1930はシャーシにネジ止めして、NS-5はシャーシに接するようにしてハンダ付けします。トランジスタにシリコングリスは不要です。また、NS-5とシャーシは点接触ですが、輻射によって熱はそこそこシャーシに逃がせます。
写真I 組み立て途中のSKVL_5基板
電源トランスFL 6/15は、SK_FL_small基板にM3×5低頭ネジで固定してリードをハンダ付けします。UCK-P27のネジ穴と干渉したため、リアパネル側のSK_FL_small基板は3カ所のスペーサ固定となっています。ACインレットはインサーキットブレーカ一体型のSK_NPR1(1A)を使用します。FLトランスとギリギリの位置になっています。
SK-C35基板にはNJD7002をハンダ付けしてから、KMHケミコンをネジ止めします。8 mm角スペーサ(秋月電子、CB3-8)をM3-4ネジで固定して、スペーサをM3-12ネジでシャーシに取り付けます。
EVRは、コントロール・ボード(写真J)のDIPスイッチ1を切り替えて、ゲイン調整範囲を -80 dB ~ 0 dBとします。なお、DIPスイッチ2は、切り替えステップの 1 dB / 2 dB の設定です。
写真J EVRコントロール・ボード
ところで、EVRとバランス調整ユニットEVR-BALCONのつまみは、マルツパーツで25X15JXPと20X15JXPSを購入しましたが、どちらも“金色”と表示されているのに、メッキの色が異なります。う~ん。
確認
配線が完了したら、もう一度接続をよく確かめてください。ケミコンの中点、入出力ジャック、基板のGNDがつながっていることを確かめます。また、ケミコンのプラス/マイナスとGNDが短絡していないことを確認します。各基板のプラスマイナスの配線も確認してください。AC側とGNDの間の絶縁抵抗もチェックします。
電源を投入して、ケミコンの端子間電圧が17 VぐらいとなればOKです。2~3時間も鳴らせば、ケミコンのエージングも進んできます。ひとまず、この状態でお楽しみください。
追加組み立て
最後に、25×10の真鍮フラットバーを12 mmの長さにカットしたデッド・マスを瞬間接着剤でMUSES 03に貼り付けます(写真K)。
写真K MUSES 03にデッド・マスを載せる
デッド・マスの上には、40×40くらいにカットした2t のソルボセインを乗せます。このとき、ソルボセインのデッド・マス側は保護ビニールを外さないで、上カバー側だけを外します。これでカバーをかぶせれば、ちょうど良い位置に貼り付いて、デッド・マスが抜けないように押さえます(写真L)。フラットバーの切断は、電動工具がないと厄介ですので、長さ25 mmのM6スペーサでもよいでしょう。
この音の差を、是非、体験してください。
写真L MUSES 03にデッド・マスを載せる
特性
第9図に無負荷、50Ω負荷、15Ω負荷時の周波数特性を示します。無負荷では12 Vrmsまで出力できますが、MUSES 03の最大出力電流の限界のため、50Ω負荷では9.7 Vrms、15Ω負荷では4.3 Vrmsを超えたところでクリップします。周波数特性は、クリップ直前レベルで測定しましたが、いずれもフラットです。
第9図 周波数特性
ひずみ特性は、MUSES 72323を0 dBとして、ヘッドホン・ドライバとしての最大ゲインで測定しました。第10図(a)は無負荷特性です。周波数20, 100, 1kHzでは0.0008 %までまっすぐな特性線となっています。10 kHz, 20 kHzでは若干数値が悪化していますが、それでも最高で0.004 %, 0.006%と低ひずみです。
第10図(a) 無負荷ひずみ特性
第10図(b)は50Ω負荷特性です。負荷のために10 kHz, 20 kHzでは0.02~0.03 %くらいに上昇していますが、十分な低ひずみ特性を示しています。
第10図(b) 50 Ω負荷ひずみ特性
第10図(c)の15Ω負荷特性では0.8 Vrmsあたりからひずみが増えています。ですが、MUSES 03ひとつあたりでは回路の8.2Ωを足しても、たったの15.7Ωの負荷での特性です。それでもほぼ0.1 %以下です。MUSES 03のオペアンプとしては信じられないくらいの強力な出力特性を示しています。
第10図(c) 15 Ω負荷ひずみ特性
音
アンプの固有音が少なくなればなるほど、ソースに入っている音が、はっきりと聞こえるようになります。はっきりと聞こえるということは、アンプの音が気にならないという状態です。電子アッテネータとしてパワー・アンプに伝送したときはもちろん、ヘッドホンでモニタしたときにも、どうのこうのと細部を気にすることがありません。音質がクリアとか音像がクッキリしているとか響きがよいとか個別にいうことはなく、演奏会場ではこんな風に聞こえるのだ、とわかるような感じです。
欲をいえば、音場の左右の広がりが、もうちょっと欲しいのです。が、拙宅のシステムはD/Aからパワー・アンプまで、すべて左右独立電源です。そこに入れての感想であって、ふつうのステレオアンプよりは広くて明確な音場感を再生していることを申し添えます。
色づけの少ないヘッドホン・ドライバです。音楽をお楽しみいただけると信じます。