真鍮基板を採用した
EVR-323X ヘッドホン・ドライバ
はじめに
本作(2022モデル)は、EVR-323OS-00-R0 ヘッドホン・ドライバ(2021モデル)の“進化形(?)”です。両モデルとも、日清紡マイクロデバイス(旧新日本無線)MUSES 72323を音量調節に、MUSES 03をパラレルとしてヘッドホンのドライブに使用しました。ハッキリいって同じ回路構成。しかも、パーツもほとんど同じ。では、なにが違うのか。
違うのは信号系の基板です。
2021モデルには、2.0tのガラスエポキシ基板を使用しました(写真A)。ふつうの1.6tよりも25 %厚みをアップした基板です。わずか0.4 mm厚くなっただけですが、触ると曲げ剛性が高まっているとわかります。基板をガッシリとすれば、それだけパーツをしっかりと支え、よりクッキリとした音像を感じさせてくれます。
写真A 2021モデルに搭載の SKHP-03E2 基板
MUSES 03 の上には真鍮デッド・マスが載せられている
とはいえ、エポキシも樹脂です。剛性は金属には及ぶべくもありません。2022モデルでは真鍮ベースに接着したエポキシ基板、名付けて「真鍮基板」を用いました(写真B)。真鍮ベースには深さ2 mmのバスタブを掘ります。プリント基板には真鍮の配線用端子をハンダ付けして、パーツをその端子にハンダ付けします。基板をベースに載せて、バスタブにエポキシ樹脂を充填し、ベースと基板を一体化させます。固めたことによって、基板と端子はベースの剛性によって支えられます。つまりは、パーツもベースの剛性によって支えられます。触るとガッシリと固定されていることを感じます。
2022モデルは、この基板の違いを同じ回路、同じパーツで確かめよう、とのコンセプトです。
写真B 2022モデル搭載の SKHP-03X 基板
ガラエポ基板を真鍮ベースに固定する
回路構成
信号系回路構成を第1図に示します。図の上では、2021モデルとまったく同じです。真鍮基板は、MUSES 72323 を搭載した EVR-323X と、MUSES 03 を載せた SKHP-03X です。
第1図 2022 モデル信号系回路構成
写真Cに EVR-323X 真鍮ベースと基板を示します。ベースは 20 mm 厚の真鍮板を、ケースに収まらなかったため 2 mm 削りました。結果的に 18 mm の真鍮板です。カプリングキャパシタは OS-CON SP を使用しました。2021モデルに使用した EVR-323OS-00-R0とまったく同じパーツです。
写真C EVR-323X 真鍮ベース(左)と基板(右)
第2図に SKHP-03X 基板回路を示します。2021モデルに用いた SKHP-03E2 とまったく同じ回路です。ゲインは10 dB に設定していますが、もう少し下げてもよい感じです。MUSES 03の出力は R4, 7, 10, 13 の 10Ωで合成していますが、これは、海神無線でNS-2Bの8.2 Ωが品切れだったためです。フィードバックループの外の抵抗ですので、出力インピーダンスが4.1Ωから5.0Ωに増えるのですが、抵抗値による音の差は私の耳には聞こえません。どちらの値でもOKです。
パスコンを10μF から1.5μF に変更していますが、真鍮ベースの厚みが加わるため、高さに余裕がなかったからです。ちなみに、MKP1840 は 10μF と 1.5μF で比較試聴していますが、ちょっと固いかなと思いましたが、ほとんど差はありません。なお、写真Bに示した真鍮ベースの厚みは 12 mm です。1.5 μFの MKP1840 を載せてケースに収められるギリギリの厚さです。ですけど、若干、厚みが足らない気がします。20 mm 厚の真鍮ベースに乗せたバッテリードライブのパワーアンプの基板と比較した印象です。
第2図 SKHP-03X 基板回路
ミューティング用のリレー(OMRON, G6K-2F DC 24 V、第3図)は載せられなかったため、秋月の両面スルーホール基板 Eタイプ(写真D)に載せて、リアのサブパネルに固定しました。
第3図 ミューティングリレー回路
写真D リアサブパネルに取り付けたミューティングリレー回路
電源回路構成
電源系の構成を第4図に示します。2021モデルとまったく同じです。電源トランスには、BLOCK FL 6/15 トランスをプラスマイナス独立で使用しました。音はよいトランスですが、RSコンポーネンツでの価格がメチャアップしたのが痛い。ちょっとこの値段では・・・。意外なところでモノタロウが FL 4/15 を掲載しています(2022/9/14現在)。容量的には問題ありません。ですけど、これも値上げされるのでは、と恐れています。
整流ダイオードには NJD 7002 を用いましたが、残念ながら製造中止品です。代替品としては Wolfspeed(旧 Cree)社 C3D08065E をお勧めします。響きを美しく、色彩感豊かに聞かせてくれる SiC-SBD です。NJD 7002 よりもよい感じです。SK-C35 ver.2 基板を用いて KMH 25V15000μFに搭載できます。
SKVL-5 基板を用いてシャントレギュレータを構成し、EVR-323X基板に電源供給しています。また、SKHP-03X 基板へは SKVL-5 の上流側から電源を供給します。シャントレギュレータによる電圧リミット効果によって、MUSES 03 の絶対最大定格を上回らないようにしています。
第4図 電源系構成
第5図に SKVL-5 シャントレギュレータ基板回路を示します。設計に関しては2021モデルの記事をご覧ください。
第5図 SKVL-5 シャントレギュレータ基板回路
2021モデルからの変更箇所
写真Eにシャーシ全景を示します。MUSES 72323 と MUSES 03 には15×10 mm 真鍮平角棒をケースに収められるギリギリの長さにカットしたデッド・マスを載せています。残念なことに、2001モデルより、デッド・マスが短く、その分軽くなっています。
写真E 2022モデルシャーシ全景
その他の2021モデルからの変更点を述べます。
トランス一次側のショックノイズフィルタをRC直列回路からバリスタに変更しています(写真E、電源スイッチのすぐ後ろ)。この両者は比較しましたが、幸いなことに私には差は聞こえません。安くて使いやすいほうにしました。
また、スイッチランプをDC点灯から、AC 100 V を2本の 5.1 kΩ(直列)で分圧してのAC点灯に変更しました(写真F)。これは比較試聴していませんが、音には影響ないでしょう。
ヘッドホンジャックは、Switchcraft 35LJNS としました。参加するヘッドホンアンプ・コンテストのレギュレーションで3.5 mmのミニジャックが指定されていたためです。ただしケースには1/4インチジャック用の穴が空いていましたので、10t の真鍮フラットバーに穴を開けてホルダを作ってジャックを接着しました(写真F)。ホルダはサブシャーシにネジ止めしています。ホルダによって35LJNSの音は、若干ですがクリアになります。サブパネルもそうですが、接点は重くて剛性の高い金属やセラミックなどのブロックに取り付ければ、よりクッキリとクリアな音を聞かせてくれます。
写真F ホルダに接着して固定した 35LJNS(左) と電源スイッチのランプ点灯回路(右)
それから、脚を貫通穴のないAFM25-12Sから、穴付きのAFS30-12Sに変更しました。脚を取り付けるネジを利用して真鍮3tのシャーシも取り付けるためです。これによってシャーシ取付金具が不要になりました。ちなみに、AFMとAFSは、どちらを使っても音は変わりません。
配線について
信号系の配線には、BELDENのロボットケーブル、RBT20276のAWG24サイズ(BEL-RBT20276 2PX24AWG)を使用しました。このケーブルは黒色の塩ビシースを被せたままでは音がボケます。シースを取り除いて、芯線を用います。真鍮基板とふつうの基板の差を聞いてもらおうとのコンセプトですから、それ以外の条件は2021モデルと揃えるべきですが、せっかく作るのですから、よい配線材を使いたい。まあ、ヘッドホンジャックが小さくなる分不利なのですから、と、ここのところは変更しました。
電源系の配線にはUL3265 AWG24を使いました。電源系の配線では、信号系に比べれば音の差は僅かです。蛇足ですが、RBT20276は定格AC 30 Vです。ACの一次電源系には使用できません(UL3265は定格AC 150 V)。
ところで、RBT20276の芯線は1組ずつツイストされてはいるのですが、ロボットケーブルとしての屈曲性を重視しているためでしょう、撚りが強くありません。そのままでEVR-323XからSKHP-03Xへの配線に使用したのでは、配線が電源トランスからの誘導を受けます(写真G、図中の赤丸)。また、リアパネルのRCAジャックからEVRまでの信号線も、シャーシに這わせているところはよいのですが、EVR基板の入力部へとつながる空中部を触るとブーンと聞こえます(写真G、青丸)。上カバーを閉めればここを触ることはないのですが、それでも、気分的によくありません。
写真G EVRとバッファアンプの接続(対応前)
そこで、EVRとアンプ基板の間はギュッと撚りました(写真H、赤丸)、入力線が空中にあるところは撚るのが面倒だったので、3M 銅箔エンボステープ 2245(8 mm幅)を使ってシャーシから等電位のカバー(下方は空いている)を被せました(写真H、青丸)。さすがにギュッと撚った線(赤丸)に触れればブーンは聞こえますが、等電位カバー(青丸)のほうは触れても聞こえません。
なお、エンボステープを追加したことによる音色変化は感じられません。ぐるっと巻いてシールド線状態にしていないから変わらないのだと思いますが、一周巻き付けてどう変わるかを聞いてみたい気もします。
写真H EVRとバッファアンプの接続(対応後)
音
2021モデルを作ったときに「音質がクリアとか音像がクッキリしているとか響きがよいとか個別にいうことはなく、演奏会場ではこんな風に聞こえるのだ、とわかるような感じです」と自信満々に記しました。ですから「それを上回る」とは、厚顔無恥な私でも、さすがに書きにくい。ここは、2001モデルとともにヘッドホンアンプ・コンテストに出品してくれたS君とコンテスト来場者のコメントをお読みください。
おわりに
写真Gに真鍮基板の横からを示します。EVR-323X真鍮基板上のMUSES 72323に載せたデッド・マスとOS-CON、SKHP-03X真鍮基板上のMKP1840とデッドマス、後方にみえるKMHキャパシタ、さらに後方のBLOCKトランス、これらのパーツがほとんど同じ高さでケースに押し込まれていることがわかります。
押し込むのには苦労しました。工作してから真鍮ベースが高すぎることに気づいて削り直しもしました。ところが、タカチUCケースのブロンズメッキタイプは製造中止です。塗装タイプはカッコ悪いので使いたくない。次は、どうするかなあ。
写真G 横からみると・・・