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MUSES 02 を用いたパラレル・OS-CON・ワールド2

​ステレオ・パワーアンプ

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はじめに

 オペ・パワー・アンプは、たいへんにクリアーな音のアンプです。パワートランジスタには、もったりとした、動きの悪いとでも形容するのでしょうか、概して鈍重な音があります。サンケンのLAPTなどマルチエミッタ・トランジスタは、パワートランジスタとしては動きの速い、スピード感のある音を聞かせてくれるのですが、それでも小さなトランジスタにはかないません。トランジスタは小さいほど、細密に描き込まれたような、解像力の高い音を聞かせてくれます。MUSES オペアンプの出力段は、さらに小さなエミッタとなっているためでしょうか。クリアーさ、緻密さにおいて、パワートランジスタの比ではない音を聞かせてくれます。

 パラレル・ワールド・アンプは、さらに透明感の高いアンプです。さすがにMUSESオペアンプであっても、多数を並列使用しますとザワザワっとしたにぎやかさがまとわりつき、派手っぽい音になります。パラレル・ワールド・アンプ基板には電源CRフィルタを採用しましたが、基板上のパスコンがASC X363からグレードダウンしているにもかかわらず、これは、想像以上に音を変えました。PhilipsがLHH-2000に用いていたのを知り、ついでに自分も似たような回路を今世紀の初めに試みていたことを思い出し、パラレル・ワールドにも試みましたが、電源CRフィルタは、ざわつき感を押さえ、音の明瞭さを向上させます。まとわりつく余計な音がなくなり、澄み切った風景を感じさせてくれます。やはり、MUSES 02のクリアーな音が、周辺回路の違いをストレートに表してくれるのだと思います。

 パラレル・ワールド・アンプでは同時に電源トランスも、インド製のトロイダルから国産EIコアへとグレードアップしました。トロイダルは配線が楽ですし、体積当たりの容量が大きく、加えて背が低くて実装しやすいのですが、音的には使いたくありません。ダルいと言うか、立ち上がりの悪い,ヌメッとした音になります。じつはこのメーカ、以前はチェコ製で、その時は良かったのですが…。

 ところで、パラレル・ワールドの電源CRフィルタには、ニチコンFGを用いました。3年ほど前に『OPアンプMUSESで作る高音質ヘッドホン・アンプ』を著しましたが、そのときに、3種類のヘッドホン・アンプとパワー・アンプを作りました。それぞれ同じ回路で、パーツと電源トランス数を変えて音の違いを体験できるアンプを作ったのですが、その折りにパスコンも入手できる限り比較試聴しました。そして、値段の安いグループの中ではFGを選びました。それほどの解像力はありませんが、トーンバランスの良いケミコンです。

 ところが、パラレル・ワールド・アンプをケースに入れた頃に、あきらめていたサンヨーOS-CON SPを入手できました。解像力、透明感では比較した中でトップのケミコンです。これは、作らないわけにはいきません。パラレル・ワールド2の始まりです。

パラレル・OS-CON・ワールド2

 パラレル・ワールド基板に組んでみると、すべての部品がOS-CONの高さに収まります(写真A)。背の低い基板ができました。

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写真A OS-CONワールド・アンプ基板

 ただし、パラレル・ワールド基板の電源平滑には2200μFを使用していましたが、OS-CON SPの16 Vは270μFしかありません。写真Aの基板だけで、つまり270μFで試しましたが、リプル電圧が2 V以上にもなり、信号を入れればさらに大きくなるため、十分な最大出力が得られません。

 そこで、電源平滑用のコンデンサを他の基板に載せることにしました。これでしたら、OS-CON平滑コン+OS-CON電源CRフィルタができそうです。サンハヤトのICB-93ユニバーサル基板に8×4個のOS-CONを並べました(写真B)。8パラで2160μF、アンプ基板と合わせて2430μFです。中域の充実度だけが取り柄のネジ端子のニッケミKMHと比べると、音はグッと広帯域となります。私も記事を発表する以上は周波数特性を測りますが、一体あのグラフはなにを表すのでしょう。聴感上はまったく違います。

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写真B 電源平滑コン基板

 ところで、バラックの基板を眺めながら聞いていると、ヘッドホン・アンプのケースに組み込めそうな気がしてきました。無理やり組み込んだのが本機です(写真C)。​

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写真C パラレル・ワールド2の内部

アンプ回路

 第1図にアンプ回路を示します。9個のオペアンプの18回路の非反転アンプを並列に接続し、出力に抵抗を入れて合成しました。

 ここで、それぞれのオペアンプの電源端子へは、電源CRフィルタを通して電流供給しています。電源CRフィルタは、音のにごりを押さえ、くっきりとした音像を再生します。傾向としてはCRの時定数を大きくした方が、透明感が際立ってきます。ただしRを大きくするとそれだけ大振幅時の電圧降下が大きくなり、オペアンプ端子での電圧変動も大きくなって、最大出力電圧が小さくなります。ですので、抵抗値はあまり大きくできません。

 時定数は、できれば10 Hz以下に抑えたい、との経験的な直感があります。パラレル・ワールドでは470μFと33Ωを使って10.3 Hzとしましたが、16 VのOS-CON (SP)は270μFまでしかありません。できれば基板サイズから、コンデンサはそれぞれ1個で作りたいところです。しかし、最大出力の点からはRは大きくしたくありません。

 迷いましたが、迷ったら作って聞くしかありません。聞かずに“理論的”に音の良し悪しを決められるほど私は自分に自信がありません。

 270μFと33Ωで17.9 Hzとした基板と、270μFと51Ωで11.6 Hzとした基板を作って比較しましたが、迷った割には、ほとんど差は聞こえません。ここは電圧降下の小さい33Ωで行きましょう。

 また、単純な非反転アンプですが、多数を並列動作させると発振することがあります。このため、入力にCR直列回路を入れて高周波での入力インピーダンスを下げています。それぞれのオペアンプ出力は、2.2Ωを用いて合成しました。

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第1図 アンプ回路

電源回路

 第2図に基板への電源供給を示します。左右プラスマイナス独立の4電源トランスです。1個の電源トランスと比べ、音像の定位感、音場の広がり感が違います。電源トランスは大きければよいとの迷信がありますが、大きさよりもどれだけ分けるかで音場は決まります。

 電源トランスは、ノグチトランスPM-1205を用いました。整流ダイオードには富士電機ERC84-009 (90V 3A)を用いましたが、音は違いませんので値段の安いERC81-004 (40V 3A)が良いでしょう。電源平滑にも16 V定格の16SP270Mを用いますので、整流後のピーク電圧が16 Vを超えないようにしなければなりません。トランスの12 V巻線を使用すると若干超えますので10 V巻線を使用します。AC電圧97.8 Vの時にDC電圧±13.6 Vになりました。

図2.png

第2図 電源接続

ケース

 ヘッドホン・アンプと同じタカチ電機UCS 180×55×180を特注して組み込みました。シャーシには、下から電源平滑基板、Rチャネル基板、Lチャネル基板と3段重ねです(写真D)。平滑基板は、1.7 mmのナットを挟んでシャーシに固定します。Rチャネル基板は16 mmのスペーサ、Rチャネル基板とLチャネル基板の間は13 mmのスペーサを用いました。シャーシは3 tとしたのですが、結果的に半固定抵抗が上蓋につっかえてしまい、上蓋を少し削りました。2 tならギリギリ収まるはずです。また、基板のハンダ面に突き出ているリードはできるだけ短く切りましたが、それでも、OS-CONと上の基板が接触しそうなので、電源平滑基板とRチャネル基板のOS-CONの上には0.5 mmのシリコンシートを載せて絶縁しています。

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写真D 3段重ねとなった平滑コン基板とアンプ基板×2

 ラジオ技術2015年2月号のEVR-4ヘッドホン・アンプと組み合わせると、電子ボリューム+パワー・アンプです(写真E)。

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写真E EVR-4ヘッドホンアンプ(2015年2月号)とパラレル・ワールド2

特性

 第3図に周波数特性を示します。1 Vrms出力でのカットオフは250 kHzです。第4図に4Ω負荷時のひずみ特性を示します。最高出力は2.4 Wです。究極の2 Wアンプでしょう。

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第3図 周波数特性

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第4図 ひずみ率特性

 なにより、聞いていて楽しいアンプです。パラレル・ワールドより、さらに透明感のある音です。ほんとうに余計な音のしないアンプです。鳴り出したとたんに、古いCDを引っ張り出して、あれこれと聞いてしまいました。

 コンデンサをOS-CONに代えるとこれだけの差です。ならば、抵抗もビシェイ・デールに代えると・・・・。恐ろしいお値段になりそうです。

 

参考資料

(1) LHH-2000回路図、

http://www.dutchaudioclassics.nl/Philips-service-manual-pdf/Philips_LHH-2000_service_manual_PDF/

(2) 別府俊幸、トランスインピーダンス・パワー・アンプの製作(製作編)、ラジオ技術2001年9月号、pp. 9 - 15

(3) 別府俊幸、OpアンプMUSESで作る高音質ヘッドホン・アンプ、CQ出版社、2013

​(掲載 ラジオ技術2015年4月号)

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