MUSES 02 を用いたパラレル・NS-2B・ワールド3
モノラル・パワーアンプ
はじめに
ラジオ技術2015年4月号の“パラレル・ワールド2”は、聞いていて楽しいアンプです。持ち味は、澄み透った音です。オペアンプに電源フィルタ回路(第1図)を用い、そこにOS-CON SPシリーズを使いましたので、パラレル接続に伴うにぎやかさを抑え、MUSES 02の透明度を余すところなく再生できるパワー・アンプとなりました。
第1図 電源フィルタ回路
アンプに電源は重要です。俗に「アンプの音の半分は電源が決める」とも言われますが、まったくそのとおりです。そして「電源の音の半分はケミコンが決める」と断言しましょう。
いうまでもありませんが、電源に電圧安定化回路を用いても、平滑回路のケミコンによって音は変わります。ケミコンだけでなく、整流ダイオード、電源トランス、ブレーカ(ヒューズ)、電源ケーブル、どれを代えても音は変わります。しかし整流ダイオードよりも、電源トランスよりも、ましてブレーカや電源ケーブルとは比較にならないほど、平滑用ケミコンは音を支配します。ケミコンだけを良くしても「すべて良し」とはなりませんが、ケミコンが良くないと、どうやっても良くなりません。
もちろん、電源フィルタ回路のケミコンも同様です。増幅回路の直近にあるだけに、平滑ケミコンよりも大きな影響があります。
電源コンデンサ
ブラックゲートもOS-CON SPもディスコンになって久しく、秋葉原でも見ることはなくなりました。そんなときにAEDIO氏がOS-CON SPを見つけてくれました。サンプルを試聴すると、私には本物に聞こえます。数もあります。製作記を書いて、十人くらいが作る数なら入手できそうです。
それならと試したのが“パラレル・ワールド2”です。電源フィルタも平滑コンデンサも、すべてOS-CON SPです。このコンデンサ、ややもすれば高域重視のトーンバランスなのですが、透明感が冴え渡ります。
2013年3月号のパラレル・ワールドの前身、オペ・パワー・アンプでは、平滑コンデンサにニッケミKMH、パスコンにASCを用いました。しかし、それぞれのコンデンサの音が聞こえました。力感はあるもののワイドレンジ感のない、どことなくざらっとしたKMHの触感に、やたら透明度の高いASCです。華やかにはなるのですが、別々のコンデンサの音色が聞こえ、それからトロイダル・トランスの音もあって、オペアンプでスピーカが鳴ったことには感動でしたが、冴え渡るとはとてもいえない音色です。
それではと、電源フィルタを採用し、平滑コンともどもニチコンFGとした2014年8月号の“パラレル・ワールド1”を聞くと、OS-CONの“パラレル・ワールド2”に比べボケッとした音場ですが、響きは素直です。へんなにぎやかさが取れ、静けさが感じられます。どうも私の耳には、いろいろな音色が聞こえるのが苦手なようです。
さらにOS-CON SPとした“パラレル・ワールド2”は、さらに付帯音の少なさで優ります。聴いていて疲れません。
でも、2 Wでは、さすがに出力不足です。もう2 Wくらいパワーが欲しいと感じます。しかも、かなりよい音で鳴ってくれているので、「抵抗も良くすれば」との思いもぐんぐんと頭をもたげてきます。
アンプ基板
あたり前のことですがコンデンサだけでなく、オペアンプを交換しても、抵抗を交換しても音は変わります。NJM4558とMUSES 02ほどには違いませんが、それでも、抵抗によって音のクオリティは変わります。ケミコンでこれだけ変わるのですから、抵抗もクッキリとした芯のある音を聞かせてくれるNS-2Bを使いたいところです。
ところで問題は基板面積です。抵抗は、オペアンプ1個につき8本必要です。そのうち2本の電源フィルタは、他の6本ほどには音に影響しません。ここはタクマン電子REY50のままでOKとします。それでも大きなNS-2Bが6本も並びます。
前回の基板に乗っていた整流回路と平滑ケミコンを除き、その条件で同じ基板サイズの137×76 mmに詰め込もうと頑張りましたが、やはり無理でした。長辺は137 mmそのままに短辺は93 mmにアップして、なんとか8個のMUSES 02を載せました(写真A)。チャネルあたり2枚の基板を使えば、合わせて16個、32パラレルです。これならパワーも足りるでしょう。
写真A パラレル・ワールド3基板
アンプ回路
アンプ基板回路を第2図に示します。MUSES 02が8個に減った点以外は、“パラレル・ワールド2”と同じです。電源フィルタの定数ですが、当初は、コンデンサ容量が270μFですのでカットオフが約10 Hzとなるようにと考えて51Ωとしました。しかし18 Hzとなる33Ωとしても音質差はほとんどありません。出力に有利なほうとします。
第2図 アンプ基板回路
オペアンプのフィードバック抵抗は、110 / 1.1 kΩとなっています。これは、たまたま海神無線に買いに行ったとき、10倍の抵抗値で64本ずつ揃ったという理由でこの値となっています。出力からは、少しでも大きな抵抗値が有利です。ただしNS-2Bは抵抗値が大きくなると巻線のピーク感が強くなります。220 / 2.2 kΩでも組みましたが、このくらいなら、110 / 1.1 kΩとの違いは聞こえません。出力の合成も1.8Ωとしていますが、1.5~2.2Ωくらいなら問題ありません。
基板使用部品を第1表に示します。モノラル1台分です。MUSES 02が8個に減った点以外は、“パラレル・ワールド2”と同じです。
第1表 使用部品
電源回路
モノラル構成として、電源トランスは、ノグチトランスPM-241 (24 V, 1 A)をプラスとマイナスにそれぞれ使いました。ステレオで4電源トランス構成です。電源回路を第3図に示します。それぞれセンタタップ整流して±電源を得ています。
第3図 電源回路
PM-241の1次巻線には、90, 100, 110 Vタップがあります。ここでは110 Vタップを使います。この状態でアンプ基板をつなぎ、一次側100.0 Vにて無信号時DC電圧±14.8 Vを得ました。このときリプル電圧は0.18 Vp-pです。
これでAC電源の電圧が変動しなければ良いのですが、上昇するとOS-CONの定格電圧16 Vを超えるおそれがあります。第4図にアンプを接続しないで1次電圧を上昇させたときの2次側のDC電圧の変化を示しますが、AC 104.3 VではDC ±15.5 Vに達し、リプルを考えると16 Vに達しそうです。
そこで電圧リミッタを用いました。第3図に示したONセミコンダクタ社の5 W, 15 Vのツェナー・ダイオード1N5352の4本パラレルです。第4図には、リミッタ回路ありの電圧も示しますが、AC 108 V においてDC ±15.2 Vまでの上昇となっています。その時のダイオードの電流は4本あわせて140 mAほどです。これなら発熱も問題ないでしょう。
ところで、信号電圧が大きくなると、出力電流も増えますから電源電圧は下がります。したがって無信号時にはリミッタ電流は大きく、信号電圧が大きくなれば低下します。つまりツェナーダイオードにも信号に関係する電流変化があります。と言うことは、リミッタ回路による音の変化があると考えられます。
そこで念のため、片チャネルだけリミッタ回路を実装して交互に比較試聴しましたが、音質変化は感じられません。AC電圧を監視しながら100 Vを超える時に試しましたが、私の部屋では、高くなっても103 Vです。(下がるときは94 Vくらいまで下がります)。ですから、ほとんど動作していないからかもしれません。電気事業法施行規則に商用電源の電圧は101 V±6 Vと定められていますので、いちおうリミッタ回路を推奨とします。
なお本機はPM-241を用いて実験的に決定した回路です。より容量の大きなトランスを使用する場合には、1N5352の本数を検討しなければなりません。
組立
第2表に基板以外のパーツリストを示します。整流ダイオードにはMUSESシリーズのSiCショットキー・バリア・ダイオードMUSES 7001を用いました。これもまた、MUSESのシリーズ名を被せられるだけの実力を持ったダイオードです。音が消えるときの余韻の再現は、他の追従を許しません。平滑回路は、SPコン16SP270Mをプラスマイナスそれぞれ18本使用して4860μFとしています。サンハヤトのユニバーサル基板ICB-293の上に組みましたが、基板が薄くて曲がってしまうので、2枚を重ねてエポキシ接着剤で貼りあわせて使っています。ただし、音には関係ありませんでした。
第2表 使用部品(基板以外)
ケースは、タカチ電機UC26-7-20を使用し、3 tアルミ板より243×184のシャーシを作りました(写真B)。シャーシはタカチ電機UCK-P42型金具を用いて取り付けましたが、トランスの高さがあるため、L型金具の下に3 mmのスペーサ(M4ナット)を挟み込み、その下にシャーシ板を取り付けています。
写真B 本機の内部
アンプ基板は、14 mmのスペーサ(正しくは7 mmの2段重ね)を用いて、二階建てとしています(写真C)。
写真C 2段重ねとなったアンプ基板
特性
第5図に4Ω負荷時の周波数特性を示します。1 Vrms (0.25 W)では約250 kHzが-3dB点となっていますが、3 Vrms (2.3 W), 4 Vrms (4.0 W) と出力を増加させるにつれて帯域幅が狭くなっています。これは、オペアンプのスルーレートによる限界です。ですが、この帯域の信号は入ってきませんから問題はありません。
第5図 周波数特性
第6図に4Ω負荷時のひずみ特性を示します。最高出力は6.5 Wです。無信号時の電源電圧は±14.6 Vありますが、1kHzの最大出力時には±12.3 Vまで下がっています。ここから33Ωを通して最大電流50 mAを供給するのですから、オペアンプの端子電圧の最低値は±12.1 Vです。4Ωの負荷を32回路のオペアンプで分担するのですから、1回路あたりの負荷は約128 Ω。オペアンプにとってはかなりの重負荷です。最大出力電圧で5 Vrms、出力は6.25 Wです。まあ、我が家では不足のない出力です。
第6図 ひずみ特性
音
本誌2013年5月号に発表したEVRと組み合わせて使用しています(写真D)。月並みな表現ですが、繊細さと力強さ、透明感と厚みを兼ね備えたサウンドです。 MUSES 02がここまでの表現力を持っていたのか、とあらためて聴き惚れています。とにかく、音楽を楽しめるパワー・アンプです。
ここまでくると、基板を固めて、ケースの剛性をアップしたいところです。
写真D EVR-3電子ボリュームと重ねたパラレル・ワールド3・モノラル・パワーアンプ
(掲載 ラジオ技術2016年3月号)