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MUSES 03を用いたパラレル・ワールド5

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はじめに

 ラジオ技術誌2018年7月号には、新日本無線MUSES 03を使ったヘッドホン・アンプを発表しました。チャネルあたりMUSES 03を2個、合計4個を使った基板 SKHP-03(SKHP-03E2 にバージョンアップ)です(写真A)。この基板を見ていると、スピーカを鳴らしたくなってきます。で、鳴らして聞くと、さすがにパワーは足りませんが、澄みきった水底まで見えるかのような透明感です。とにかく解像度が高い。これは、パワー・アンプにするしかありません。

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写真A SKHP-03Eヘッドホンアンプ基板

入力オフセット電圧

 ところがMUSES 03にも弱点というか、困った点があります。入力オフセット電圧です。オペアンプ内部の素子のばらつきから「出力」に表れるオフセット電圧です。第1図に示すように、入力オフセット電圧VIOは非反転入力端子に加えられた直流電圧として振る舞いますので「入力」と名付けられています。VIOはアンプのゲイン倍されて、出力にオフセット電圧として現れます。

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第1図 入力オフセット電圧​

 データシート(1)によれば標準で1 mV。最大値は示されていません。20個ほど測定しましたが、6 mVを超えるモノもあります。ゲインを11倍とすれば、66 mVものオフセット電圧が出力されることになります。

 これくらい「パワー・アンプとしては許容範囲」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。はい。ちょっと大きいですが、使えないほどではありません。問題は、パラレル・ワールドにするから発生します。低抵抗を用いてオペアンプの出力を合成するからです。

 4パラで考えます(第2図)。IC1~3の入力オフセット電圧が0 mVで、IC4が6 mVあったとします。このとき、出力電圧はIC1~3が0 mVですが、IC4は66 mVであり、合成オフセット電圧は16.5 mVとなります。いま、出力合成抵抗に2Ωを使ったとすれば、IC4からは24.8 mAもの電流が出力されます。そして電源電圧を±15 Vとすれば、IC4の発熱は370 mWとなります。これはアツい。じゃなかった。マズい。合成用抵抗の値を大きくするしかありません。

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第2図 入力オフセット電圧​による発熱

 ところで、ダンピングファクターなるパラメータがあります。スピーカの定格負荷インピーダンス÷パワー・アンプの出力インピーダンス、より計算される値です。

 ところで、40年くらい前には、トランジスタアンプのメーカーが、ダンピングファクターの大きさを宣伝していました。しかし、球派の人たちは「そんなものは関係ないのだ」とか「10もあれば十分だ」と反論されていました。そんなのは昔話かと思っていたのですが、いまでもY社のウェブサイトにはあっさりと、「値が大きい方が優れています」と記されています。おいおい、40年間変わっていないではないか。

 私はダンピングファクターの大きさで音の良し悪しを語れる、とは考えませんが、それでも、アンプの出力インピーダンスが音を変えることは経験しています。では、どれだけ変わったと感じるか。

 拙宅のウーファは公称4Ωです。パワー・アンプはパラレル・ワールド4。計算上の出力インピーダンスは約60 mΩですから、ダンピングファクターは67です。このアンプの出力とGNDに、それぞれ0.47Ωを入れて聞きました。ダンピングファクターは約4です。使用した抵抗はビシェイ・デール、5WのNS-5です。

 Y社によれば「ダンピングファクターが小さいと、不要な振動が素早く収束しないので、キレの悪い締まらない音となる」そうですが、あのページを書いた人は、試聴したことあるのですかねえ。だいたい、あの手の理論的な説明は「書き手が(聞かないで)考えられた」ことだけを書いていますからね。断言します。聞いてはいないでしょう。

 私にいわせてもらえば、「ウーファの制動を云々するなら、バスレフ箱は使うな」ですよ。ダンピングファクターよりは、密閉箱とバスレフ箱の方が、はるかに振動板の動きを変えますし、音も変えます。もちろん、どちらが好みかは別の問題です。あのページを書いた人なら「バスレフは、信号に含まれていない振動が素早く収束しないので、低域が豊かに響く」と記すのでしょうねえ。ちなみにY社のスピーカはバスレフばかりです(笑)

 「頭の悪い奴ほど“ひとつ”のことですべてを説明したがる」とは、恩師の言葉です。スピーカキャビネットも、スピーカユニットのQもすべて無視してダンピングファクターだけで語ろうとするから、音を良くできないのです。ついでですが私の体験からは、「理由づけされていることほど、試聴すると差が聞こえない」と、付け加えます。

 脱線しました。

 0. 47Ω×2では、低域が変化する印象はほとんどありません。逆に中高域が淡泊になるというか、響きが押さえられるように感じます。うーん。差はあるかな。ブラインドテストされても、音の違いがあることは指摘できると思います。ただ、どちらのダンピングファクターが大きいかは、私には当てられません。ですが、「キレの悪い締まらない音」と指摘する人は、いないと断言できます。

 次に、0.22Ω×2で試しました。ダンピングファクター8です。抵抗なしのときとの差は、ごくわずかです。音の傾向は、0. 47Ω×2と同じ方向ですが、差はずっと少ない。まあ、悪くはなっていません。

以上の実験より、アンプの出力抵抗は理想的には0.5 Ω、最大1 Ωまで許すと決めます。オペアンプの出力を8.2Ωで合成すれば、8パラなら1Ω、16パラなら0.5Ωです。このとき、第2図のIC4なら出力電流は7 mA。電源電圧±15 Vであれば、消費電力は105 mW。許せる範囲としましょう。熱に変わるのがもったいないですけど。

 オペアンプからの出力電圧降下は、ピーク出力を0.25 Aとして計算すると2 V。これは最大出力を下げるので、もったいない。ですけど、妥協しましょう。

 

アンプ構成

 ヘッドホン・アンプ基板SKHP-03Eは、左右にそれぞれ2個のMUSES 03を乗せます。この基板をモノラル、つまりは4パラとして、2枚と3枚と4枚。ですから8パラと12パラと16パラの最大出力(4Ω負荷)を調べました(第3図)。電源電圧が、もろに出力を決めます。まあ、5 Wもあれば我が家では十二分ですので、まずは2枚で作ることにします。

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第3図 電源電圧と最大出力

 第4図に本機の回路(片チャネル)を示します。SKHP-03E基板の入力LINとRIN、出力のLOUTとROUTを接続してモノラルとしたものを2枚使います。そのうちの1枚の入力には、入力抵抗にNS-10の10 kΩを用いました。NS巻線抵抗といえども、NS-2BよりNS-5が、NS-5よりNS-10が、芯のあるクリアな音を聞かせてくれます。

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第4図 本機の回路(片チャネル)

 製作後に確認すると、4Ω負荷時に寄生発振が見られましたので、基板のうちの1枚の出力部にゾベルフィルタを入れます。ここの定数は実験的に決めました。8.2Ωと0.01μFを直列です。CRを直列接続して、SKHP-03Eの出力パッドとグランドパッドの間に入れます(写真B)。抵抗はふつうの金属被膜でかまいません。音に影響しないことは確かめています。

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写真B ゾベルフィルタの追加

 ショックノイズ防止リレーは省略しました。これを入れないと電源投入時の出力電圧変動がヘッドホンではもろに聞こえるのですが、スピーカではまず聞こえません。このときには、まだフィードバックループが閉じていない状態ですので出力インピーダンスが高く、スピーカをドライブできるだけのパワーとなって現れないためと考えます。

 

電源構成

 電圧安定化回路を用いると、音にも電圧安定化回路の響きが混ざります。ですから、無安定で臨みます。もちろん、無安定としたところで電源トランスや整流ダイオード、フィルタのキャパシタ、サーキットブレーカ、さらには電源コードの音は聞こえます。しかし、電圧安定化回路を用いたところで、それらの音がなくなるわけではありません。どちらが余分な音を少なく感じるか、との好みの問題です。

「電源電圧を一定にすると音が良くなる」と信じる方は、私の御託は無視してください。でも、それなら「三端子レギュレータは音が良くない」などとはいわないでくださいよね。それから、スイッチングレギュレータを使って電圧安定化回路ありなしの議論をしないでくださいね。スイッチングレギュレータ自体が、電圧安定化回路になっているのですから。

 またまた脱線しました。

 電源での課題は、高価なオペアンプを壊さないようにすることです。MUSES 03の絶対最大定格をみますと、電源電圧±19 Vです。無信号時の電源電圧が、一瞬たりともこの値を超えないようにして、最大出力時の電源電圧をできるだけ高く(できるだけ±18 Vに近く)することが目標です。電圧安定化回路を使えば簡単ですが、嫌いなものは使いません。直流±18 Vを得るためには、交流電圧は√2で割って12.8 V。これより、電源トランスの2次巻線電圧は12 Vとします。

 ピーク電流は、MUSES 03が4個載ったヘッドホン・アンプ基板を2枚使いますから、オペアンプのピーク出力を0.25 Aとして×8個で2 Aです。サイン波ですから平均電流は1.28 A。プラスとマイナスは、当然のこととして別々の電源トランスとします。音のためです。音場感が広がるとともに定位感がはっきりとします。平均電流は、それぞれのトランスが交互に供給しますから半分の0.64 A。VA(電圧×電流)で考えれば18 V×0.64 A = 11.52 VAですので、トランスの2次電流は1 Aとします。これより、ノグチトランスPM-121を選びます。

 さて、商用電源の電圧変動を検討します。第5図にPM-121の無負荷での1次電圧対2次電圧特性を示します。100 V入力時にAC 13.2 Vです。当然のごとく2次電圧は、1次電圧に比例します。

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第5図 PM121出力電圧特性​

 商用電源の電圧は、電気事業法施行規則第三十八条に「百一ボルトの上下六ボルトを超えない値」と規定されています。95~107 Vです。これは電力会社から供給される値であり、屋内配線による低下もありますから、コンセントでは若干下がります。私の部屋で夏にエアコンを使っていると93 Vを下回ることもあります。まあ、余裕を見て90~110 Vで動作するようにと考えます。下がる分には最大出力が減るだけです。

 問題は高い方です。110 V入力では、PM-121の出力は14.5 Vとなります。これを√2倍すれば20.5 Vです。ここからダイオードの順電圧降下(ブリッジ整流として、ダイオード2個分)、フィルタキャパシタへの充電時間が短いことによるトランスの電圧低下があります。どれだけ下がるかは実測で確認します。

 整流ダイオードはNJD7002を使います。抜群の解像度とクリアさを兼ね備えたMUSES 7001には及びませんが、その1/10以下の値段で透明感の高い音を聞かせてくれるショットキー・バリア・ダイオードです。

 第6図にNJD7002の温度対最大電流特性を示します(2)。電源トランスからの平均電流0.64 Aは、ブリッジ整流ですから2本のダイオードが交互にオンオフして供給します。ですから、Duty比0.5の特性線から、90℃以下なら使えます。余裕です。

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第6図 NJD7002 温度対最大電流特性

 ケミコンは25 V耐圧のニッケミKMHネジ端子、高さ50 mmの15,000μFを使います。ハーフブリッジ基板SKHBR-7002を用いてNJD7002を接続します(写真C)。この状態でのAC電圧変動時の電源電圧を第7図に示します。オペアンプなし(負荷として2本のLEDにそれぞれ約2 mAを流した状態)では、AC 100 Vで±17.1 V。110 Vで±18.8 Vとギリギリ19 V以下です。なお、オペアンプを8個用いたときにはそれぞれ±16.6 V、18.5 Vでした。

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第7図 入力 AC 電圧対 DC 電源電圧特性

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写真C ハーフブリッジ基板SKHBR-7002をKMHに取り付けたところ

ケース組立

 第1表に使用部品を示します。ケースはタカチ電機工業 UC32-8-24DD です。オールアルミの使いやすいケースです。難点は、パネルがペラペラなこと。電源スイッチを押したときでさえ、ペラッとしたプラスチックケースのような感触です。ですので、内側にサブパネルとして3tの真鍮板を貼り付けています。

 フロントパネル側は、感触だけの問題ですが、リアパネル側には入出力端子が取り付けられます。こちらは、音にも効果あります。真鍮のサブプレートを介して取り付けると、かっちりと締まった音像を再生できるようになります。

第1表 使用部品

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 第8図にパネル加工図を示します。サブパネルはコーナーのRを避けて、フロントを298×72 mmサイズとして、リアはさらに角穴も避けて283×72 mmサイズとしました。パネルとサブパネルは、セメダインスーパーX2で接着しています。穴位置がずれないようにして、上から重しをドカッと載せて固定します。

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第8図 パネル加工

 電源スイッチは、IDEC LB照光スイッチです。使いやすいスイッチですが、固定金具をグラインダで削らないとサブパネルに取り付かないのが難点です。削るのが面倒なら、サブパネルを248×72 mmサイズとします。スイッチは1.7 mmのメインパネルに取り付く形となりますが、すぐそばまでサブパネルがあるので、ペラペラ感はなくなります。

 スピーカターミナルには、テラダエンジニアリングSP-10Ⅱを使用しました。OFC削り出しのターミナルです。S社にそっくりの外形のダイカスト品がありますが、音はびっくりするほどに違います。ダイカストとメッキのせいでしょうか。

 入力ジャックは、最高級を目指すのならWBTですが、ちょっと高すぎる。お値段が。千円以下くらいと思うのですが、なかなか良いモノがありません。

 ところが最近になって、モガミ・ネグレックス7552に気づきました。なにに気づいたかといえば、30年ほど前に同型番の端子を試したことがあったのですが、そのときとモデルが違っていることです。海神無線に聞くと、モデルチェンジが2回あったとのこと。で、聞いてみるとダイカスト品に共通するフニャフニャというか、チャラチャラというか、安っぽい響きがありません。サラサラしたというか淡泊なサウンドなのですが、この価格帯では、聞いた中のベストです。GND側の端子に穴が空いていないので線を取り付けにくいのが難点ですが、まあ、ハンダの乗りがよいので許します。それに、この構造によって、GNDリングが不要となり、接点が一カ所減るのは音的に改善が著しい。それよりもダイカストではなく、削り出しで工作されている点が嬉しい。

 シャーシも3tの真鍮板です。アルミよりも音の重心を低くするというか、くっきりとした再生音になります。すべてM3のタップを立てて、上面からネジが止まるようにして、シャーシはケース下カバーに直接置いています。位置合わせと固定のため、シャーシ固定金具UCK-P42を用いて四隅をネジで押さえています。固定金具とシャーシの間には計算上1.4 mmの隙間が空きますので、M3の平ワッシャを2枚挟みます。

 基板は、雄ネジ-雌ネジタイプの段間用スペーサ(廣杉計器、MSB-305-03E)を用いてシャーシに固定します。スペーサは本体が5 mmで雄ネジ部分が3 mmですので、シャーシの下にネジがはみ出しません。

 

アンプ基板

 アンプ基板はSKHP-03Eです。パスコンはERO MKP1840, 160V 6.8μFとしました。MKP1840はASC X335と同じく、透明感の高いサウンドを聞かせてくれるキャパシタです。クオリティは優劣つけがたい。中域が若干薄いのですが、反面、最高域は広く感じます。低域の量感は同じく素晴らしい。いずれも海神無線で扱っています。ヘッドホン・アンプでは10μFを使用しましたが、6.8μFとの違いは私には聞こえません。数が必要ですので安い方にしました。

 ところで、MUSES 03を乗せるICソケットに、秋月電子で抱き合わせ販売しているモノを使うと、せっかくの03サウンドが汚れます。ここはスイス製PreciDipをお薦めします。

 

全体配線と動作確認

 電源トランスの一次側は、0 V同士、100 V同士を接続します。極性をあわせたほうが、シャーシ電位を下げられるようになります。いずれかのトランスの一次端子間に、ノイズキラー用CRを取り付けます。NJD7002は、ハーフブリッジ基板SKHBR-7002を用いてケミコンに取り付けます。このボードは便利です。配線が楽になる上にすっきりとします。ハーフブリッジ基板はSKHBR-7001Aにモデルチェンジしていますが、使い方は同じです。

 左と右のチャネルのGNDは接続してありません。シャーシへは、どちらかのチャネルの入力端子のGNDから1点アースとしてあります。ハムノイズさえ出なければ、左右のチャネルからそれぞれシャーシの同じポイントに1点アースする方が、ノイズは少なくなります。

 すべての配線が終わりましたら、もう一度,配線を確認します。それから、AC側と、ケースおよび左右のGNDの間に導通がないことを確認します。次に、ハーフブリッジ基板のところで、プラスとGND、GNDとマイナスの間が導通していないことを確かめます。さらに、入力端子とスピーカ端子とハーフブリッジ(2枚とも)のGNDが導通していることを、左右それぞれ確かめます。最後に、ハーフブリッジとアンプ基板のプラス(ICの7ピン)とマイナス(ICの4ピン)間の導通を確認します。

 電源を入れて、電源電圧が±16~17 Vであることを確かめます。良ければ鳴らしてみましょう。

 

デッドマスの取付

 動作確認が完了したら、MUSE 03には真鍮製のM6×55 mmのスペーサを載せて防振を図ります(写真D, E)。33グラムの付加質量(デッドマス)です。まあ、これは聞いてみて下さい。パワートランジスタを取り付けるヒートシンクによって音が変わることは、自作マニアには常識と思います。オペアンプも同じです。パッケージによって音が変わりますし、取り付ける基板によっても音は変わります。デッドマスは音の輪郭をはっきりとさせます。

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写真D MUSES 03 に載せたデッドマス

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写真E ケースを閉めたところ

 スペーサは放熱にも役立つと考えて、熱伝導性接着剤転写テープ(スリーエム、9885、秋月電子P-00516)を用いてオペアンプに貼り付けました。しかし、接着面積も狭く、接着力は十分ではありません。あとで瞬間接着剤に変更しました。

 ケースの内寸は74 mm。シャーシが3 mmでスペーサが5 mm、基板が2 mmで、ソケットに載せたICの高さが8 mm。スペーサが55 mmですから残りは1 mmです。この隙間(スペーサとケース上フタとの間)には、ハイパーソフト放熱シート(スリーエム、5589H-10, 1.0 mm厚、モノタロウ21006834)を2枚重ねて、デッドマスがソケットから離れないように押さえています。シートは台紙を剥がして強接着面が上になるようにデッドマスの上に載せ、上フタを閉めると、フタの側に接着されます。ただ、オペアンプそのままですとわりと熱いのですが、デッドマスはほんわりと暖かくなるくらいで、ケース上フタはまったく温まりません。

​ シャーシ全体を写真Fに示します。

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写真F シャーシ上面より

(デッドマスを載せる前に撮影。デッドマスは音のためだけでなく、放熱のためにも必要です)

特性

 第9図に4Ω負荷での周波数特性を示します。周波数100 kHzを超えた辺りからなだらかに減衰し、-3 dB点は500 kHzです。

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第9図 周波数特性

 第10図に4Ω負荷でのひずみ特性を示します。最大出力5 Wです。第11図に100 kHz方形波応答を示します。周波数応答そのままに、波形の立ち上がりが丸くなっています。

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第10図 ひずみ特性

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第11図 100 kHz 方形波出力

 残留ノイズは、入力オープンの状態で、1点アースした側のチャネルが0.7 mV以下、してないチャネル側が5 mV以下でした。聴感上はノイズに差があるようには聞こえません。出力のオフセット電圧は、約8mVと-2 mVでした。オペアンプの選別をしたわけではなく、確率的にこうなりました。入力オフセット電圧のばらつきは大きいのですが、8個パラレルにすると平均化されます。

 

 水の底の砂の粒がわかるかのような、MUSES 03の解像力の高いサウンドを楽しめます。03は、02よりもさらに細かな音まで再現してくれます。オペアンプに出力段を付け加えたあらゆるパワー・アンプよりも、はるかに透明感の高いサウンドであることを保証します。細かいことはいわず、ゆっくりと音楽に浸れるアンプです。作るときには細かいことばかりグチャグチャ言ってましたけど。

 

おわりに

 MUSES 03がFET入力だから面倒なのです。ゲート電流が流れない=音がよい、との妄想からFETを指示するマニアもいますが、聞いて決めましょうよ。ベース電流が流れる石のほうが、トーンバランスはよい傾向があります。早くBJT入力のMUSES 04が出てこないかなあ~。

 

参考文献

1) 新日本無線、MUSES 03データシート

2) 新日本無線、NJD7002データシート

(掲載 ラジオ技術2018年10月)

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