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バッテリー駆動パワーアンプ
パラレル“バッテリー”ワールド7

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バッテリーワールドの構想

 「パラレルワールド6に、無停電電源装置(UPS: Uninterruptible Power System)から電源を供給したら、静けさが増してハーモニーがより美しくなった」との友人からのメールが、バッテリー駆動パワーアンプの始まりとなりました。

 私も幾度か、AC電源によって音が変わることを経験しています。ACラインに100 V : 100 V の絶縁トランスを挿入していたこともあります。200 V 配線からのステップダウンも実験しました。あるいは、AC 100 V を出力する正弦波発振器も試しました。ですから、友人からのメールに「さもありなん」と考えました。

 UPSは、停電を検出すると瞬時にインバータを起動して、内部のバッテリーに充電されたDCから AC 100 V を生成します。30年くらい前ですが、私もUPSを使っていました。電源の瞬断によってデスクトップのデータを失ったからです。ただ、当時のUPSは、正弦波とはよべないような波を出力しました。ですから、それをアンプに供給しようとは考えませんでした。
 最近のものは良好な正弦波を出力すると聞いています。それでも、100 V の正弦波電源(良好な波形を出力した)を使ったときに“スイッチングレギュレータの音”が聞こえてガックリしたことがあります。ですから「UPSでバッテリーのDCからACを作り、それをアンプの電源回路で再びDCに戻す(第1図(a))よりも、バッテリーのDCを直接アンプ回路に供給する(第1図(b))ほうがよくなるにちがいない」と決めつけました。 

UPSを使ったとき.png

(a) UPSを使用したとき

バッテリーから直接.png

​(b) UPSを使用するよりも、こうしたい

​第1図 アンプ回路への電源供給

バッテリーワールド7の構成

 バッテリーワールド7は、友人も気に入ってくれたパラレルワールド6の構成を踏襲します。第2図にアンプ回路を示します。真鍮基板 SKHP-03X は、MUSES 03 を2個パラレルに接続したステレオ・ヘッドホンアンプ基板です。その左右を接続して4パラ、基板を3枚でチャネルあたり12パラにします。

 ここで、12パラレルとしたMUSES 03 をひと組のバッテリーでドライブすることも可能です。しかし、一つの電源としたままパラ数を増やすと、ざわざわとして平面的な音になります。MUSES 03 をもってしても、です(試聴しました)。

 パラレルワールドには、電源分離が重要です。ですので、SKHP-03X 基板ごとに6直列の6Vバッテリーで駆動します。

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​第2図 パラレルワールド7のアンプ回路

 バッテリーは、台湾のLong社の WP4.5-6 です。同容量の日本製よりずっとお安い!なお、日本製との比較試聴はしていません。もしも日本製がよかったら10万円以上のコストアップになりますので・・・。

 実験時は、バッテリーだけでアンプを駆動していたのですが、組み立てを始めてから 15000μF のKMHキャパシタを並列にすると弦楽器の響きがふくよかになりることを確認しました。ところが、載せるスペースがない。そこで、10 mm 厚の真鍮板でサブシャーシをつくり、表側にアンプ基板 SKHP-03X を、裏側にKMHを配置しました(写真A、B)。音的にも、サブシャーシに載せたほうがクッキリとした気がします。

 KMHは、SK-C35 ver.2 基板に取り付け、8 mm 角の取付ブロックを用いてサブシャーシに固定しています。また、ケミコンの端子間には、シリコンカーバイドSBD、C3D08065E を逆方向接続します。このダイオードに電流は流れないはずですが、なぜでしょうか、わずかですが音の粒立ちがクッキリとします。

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写真A サブシャーシに組み立て途上の SKHP-03X 基板

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写真B サブシャーシ裏面に配置した KMH キャパシタ

 アンプのオン/オフには、OMRON G2RK-2 ラッチングリレーを用いました。下流側に 15000μF もの容量が入るため、スイッチオン時の突入電流は 20 A を超えると考えられます。厳密にいえば、G2R-2 リレーの接点電流の最大値 5 A を超えますが、瞬間的ですから大丈夫でしょう。なお、電源系にリレー接点を挿入したことによる音質劣化は感じられません。

 充電コントロール基板、充電オン/オフ基板、アンプのオン/オフを担当するリレー基板と三段重ねにして、バッテリーと SKHP-03X 基板の間に押し込みました(写真C)。無理矢理に重ねましたが、配線は面倒でした。

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​写真C 充電回路の実装状態

(左)バッテリーと上に載せた電圧リミッタ基板

(中)上から、充電コントローラ基板、充電オンオフ基板、リレー基板

(右)SKHP-03X 基板、MUSES 03 上にはデッドマスが載せられている

 最大出力電流 250 mA を誇る MUSES 03 は、FET入力なのが気に入らないですけど、パラレルにしてスピーカを鳴らすには最適のオペアンプです。なによりもオペアンプ臭い、伸びのない頭打ちにされたような音、がないところがうれしい。

 その MUSES 03 には、真鍮棒をカットしたデッドマスを載せています。デッドマスは音像を明確に、定位をクリアに再生してくれます。載せないなんてもったいない。どんなオペアンプにも効く音質改善法です。また、パラレルワールドでは、デッドマスはヒートシンクとしても必要です(詳しくはブログ『熱くなるのが問題だ』をご覧ください)。

 ところで、SKHP-03X 基板1枚だけでは安定して動作するのですが、3枚を並列にしたときには、寄生発振が観測されました。このため、入力と出力にゾベルフィルタを加えています。これはパラレルワールド6と同じです(詳しくはブログ『発振を止めたので音を語ろう』をご覧ください)。基板に直接載せられないので、入力側はNS-10の入力抵抗の上(写真D)に、出力側はスピーカターミナル(写真E)に、それぞれ載せています。

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​写真D NS-10 に載せたCとR(ゾベルフィルタ)

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​写真E スピーカターミナルにネジ止めしたCとR(ゾベルフィルタ)

​ぐらつかないようにボンドでサブパネルに接着している

バッテリー電源の充電回路

 3系統18個のバッテリーは、接続したまま充電できないと面倒です。ところが、アンプを動かす間は充電器は外さないと音に悪影響が及びます。使用したスイッチングACアダプタでは、つないだままではガサガサした音がつきまといました。

 そこで、第3図に示す充電系回路の構成としました。メインコントローラは、スイッチやリモコンの操作によってアンプをオン/オフします。また、オン/オフの信号を3系統のバッテリー充電コントローラに送ります。

 充電コントローラは、アンプがオフの間は12時間ごとにバッテリー電圧をチェックして、上限(充電電圧)を下回っていれば充電を開始します。充電中もスイッチの操作があれば、充電をオフにしてからアンプをオンします。アンプ動作時は電圧をチェックして、いずれかのバッテリー電圧が下限値を下回ったときにインジケータを点滅させてユーザに知らせ、その状態が20分間続いたときに強制的にアンプをオフします。強制あるいは操作によってアンプが停止されたときには、バッテリー充電を開始します。すべてのバッテリー電圧が上限に達したときに、充電を終了します。

 充電には、プラスとマイナスにそれぞれ 24 V のACアダプタを使用します。それぞれのアダプタからは直列抵抗を通してバッテリー系統ごとに電流を制限して、プラスまたはマイナスの3直列バッテリーをまとめて充電します。

 充電のオン/オフスイッチには、フォトリレー(東芝、TLP-222AF)を用いました。GNDも含めた3線を切り離します。当初、プラスとマイナスは切り離してGNDは接続のままにしていたのですが、ACアダプタを抜き差しすると影響が聞こえたため、GNDも切り離しました。

 バッテリーは系統ごとに充電されますが、長期に使用していると3個のバッテリー電圧にバラツキが生じると考えられます。そのため、それぞれのバッテリーには、上限値に達したときに電流をシャントさせるための電圧リミッタを並列に接続しています。

バッテリーコントロール回路.png

​第3図 充電系回路の構成

 電圧リミッタの基本回路を第4図に示します。NJM1431 を使用したシャント・レギュレータです。NJM1431は、431タイプのシャントレギュレータです。バッテリー電圧が、R1とR2によって設定された上限を上回ると電流をシャントするのですが、シャント電流はR3での電圧降下を大きくします。この降下電圧は、PNPトランジスタのベース・エミッタ間電圧ですから、エミッタ電流を増やします。これによって、充電電流がシャントされます。

 ただし、電圧リミッタ回路自体にも電流消費(R1とR2の直列回路と431のアイドリング電流)があります。接続したままではバッテリーを消費させますので、フォトリレーを用いてオフ時には切り離します。

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​第4図 電圧リミッタ基本回路

 電圧リミッタには、バッテリーが上限電圧に達したことと下限電圧を下回ったことを検出し、充電コントローラに伝える回路も組み込みました。充電コントローラとは、8芯のフラットケーブル(そのうちの5芯)で接続しています(写真F)。残りの3芯は、メインコントローラと3個の充電コントローラ間の通信に使用しています。

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写真F 8芯フラットケーブルを使って基板を接続

(上)電圧リミッタ基板(バッテリーの上に設置)

(下左)充電コントローラ基板 (左右)メインコントローラ基板

バッテリーの充電電圧

 このアンプでは、それぞれ3直列の 6 V バッテリーでプラスとマイナスの電源を構成します。そのため、MUSES 03 の電源電圧の絶対最大定格±19 V を超えないように、バッテリー1個あたりの充電電圧を 6.3 V、3直列で±18.9 V 以下としていました。これ以上の充電電圧としたのでは、充電を止めてからも電圧が下がるまではアンプを動かせないからです。

 ところが 6.3 V では、バッテリ-への充電が不足です。LONG社の技術資料に示されるように、開放端子電圧が 6.3 V であっても充電率は70%くらいです。6.3 V で10時間くらい充電しても、充電を止めて10分もすれば端子電圧は 0.2 V くらい下がります。ですから、充電率は50%に達していないでしょう。下限を 5.6 V として試していましたが、この状態では、3~4 時間の連続使用が精一杯でした(詳しくはブログ『バッテリー充電回路の構成』をご覧ください)。

 どうしたものかと考えましたが、偶然、±21 V を印加してもMUSES 03 は壊れないことが判明しました(詳しくはブログ『バッテリーの充電電圧:MUSES 03 の絶対最大定格に関して』をご覧ください)。絶対最大定格を無視するなんて非常識にもほどがある、のですが、テストした個体(とパラレルワールド7に使っている個体)はすべて無事です。

 それならば、充電電圧を引き上げられます。バッテリーの技術資料には、フローティング充電電圧 6.75~6.90 V と記されています。そこで1個あたり 6.76 V、3直列で ±20.28 V を充電電圧としました。充電コントローラでは、系統のすべてのバッテリーが充電電圧(上限)に達してから30分間フローティング充電を続けるようにプログラムしました。この設定で、音量にもよりますが12時間くらいは連続して使用できます。

真鍮基板

 ガラスエポキシ基板であっても、厚みを増せばそれだけクッキリとした音を聞かせてくれるようになります。ですから、パラレルワールド6に使用した SKHP-03E2 基板も標準1.6 mm よりも25%厚い 2.0 mm としています。しかし、厚くしたとは言っても、エポキシ樹脂の剛性は金属には遠く及ばない。

 かなり以前の経験ですが、ガラエポ基板に真鍮ベースを取り付けた「真鍮基板」を採用したパラレル・真鍮・ワールド4は、ガラエポ基板を使ったパラレル・NS-2B・ワールド3と比べ、微少音の再現能力に優れました。霧が晴れて、音像が“見える”ような差です。もちろん、同じ回路での音の差です。これは、使いたい。

 第5図に真鍮基板の構造を示します。ガラエポ基板にはピンをハンダ付けし、パーツはピンにハンダ付けします。このガラエポ基板を、2 mm の深さに“バスタブ”を掘った真鍮ベースに載せ、エポキシ樹脂をバスタブに充填します(写真G)。充填したエポキシ樹脂は周囲を真鍮ベースに囲われていますので、曲げやねじりに対して真鍮ベースと一体化した剛性となります。そして基板もエポキシ樹脂と一体化しますから、基板そのものが真鍮ベースと同等の剛性です。基板にハンダ付けされたピンもエポキシ樹脂によって保持されるのですから、これまたベースの剛性で支えられます。そのピンにパーツはハンダ付けされています。パーツもしっかりと保持されます。パーツに軽く触れただけで、がっちりと固定されていることがわかります(写真G)。

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​第5図 真鍮基板の構造

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写真G SKHP-03X 基板と真鍮ベース

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写真H 真鍮基板 SKHP-03X

MUSES 03 にはデッドマスを載せている

ケース実装

 ケースは、タカチ UC43-14-28DD を用いました。ところが残念なことに、UC ケースのメッキタイプは廃番です。示しても仕方がないので図面は省略します(ご興味ある方は連絡ください)。ケースには 4 mm 厚の真鍮シャーシを敷き、5 mm 厚のジュラコン板で作った受け皿にバッテリーを並べました。フロントパネルには 2 mm、リアパネルには 3 mm のサブパネルを接着しています。フロントパネルを 3 mm にしなかったのは、バッテリー受け皿の取り付け位置がマズくて入らなかったからです。

 入力ジャックはWBT 0210Cu を使いました。いままでに試した中で、もっともハンダ付けに近い音を聞かせてくれたRCAジャックです。しかも、プラグを選びません。よいプラグはよりよく、そうでないプラグもそれなりに、クリアな音を聞かせてくれます。接点の接触状態を改善しているのでしょう。

 スピーカターミナルは、いつものSP-10Ⅱです。ガッシリとしたターミナルです。これより大きなものを試したこともありますが、差は感じません。それよりも、真鍮サブシャーシのほうが音のリアリティに効きます。RCAジャックもです。

​ 写真Iに本機のシャーシを示します。アンプ基板は左上の一部。ほとんどバッテリーのオバケ状態です。

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写真I シャーシ全景

 写真Jに裏パネル上方からの写真を示します。ACコネクタはありません!アンプ電源バッテリー用の 24 V が2個、コントロール系用の 9 V のジャックが1個です。ジャックの上のスイッチはコントロール系の電源です。移動時などにオフにします。

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写真J リアパネル上方から見る

 写真Kにフロントパネルを示します。エーワンの転写シールを使って文字入れしました。インクジェットプリンタの出力をそのまま転写できます。ロゴも貼り付けました。

 フロントパネルにはデジタル電圧計を使って、3系統のプラスとマイナスのバッテリー電圧を赤と青、デジタル系のバッテリー電圧を緑で表示しています。被測定回路に接続するだけで動作する便利な電圧計ですが、残念ながらディスコンです。電圧計の上のLEDは、充電状態を示します。

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写真K フロントパネル

​ いつもそうするのですが、思いついたことやみつけたことを比較試聴して、よかったほうを採用します。回路も、パーツも、作り方も、組み合わせ方も、調整の仕方も、音を聞いてから採否を決めます。そうやって作るのですから、好みの音に仕上がらないはずがありません。まぁ、世界の名器なるものをすべて聞いたわけではないですが、聞いた限り、それらよりずっと好みの音です。

 パラレルワールド7は、微少な音の再現に秀でたアンプです。あたかも、「こうやって演奏しているのだ」と他のアンプではわからなかったディテールが見えるような気になります。タッチや響きがより細かなところまで聞こえるようになれば、それだけ、より音楽を楽しめるようになります。

 さて、音については私がくどくどと書くよりも、ずっとパラレルワールド6を使っていた、そしていまはパラレルワールド7を使っている友人に語ってもらいましょう。ブログ『パラレル“バッテリー”ワールド7の音』をご覧ください。

おわりに

 ひずみ率計が壊れて、測定ができていません。最大出力は4Ω負荷にて12 W。パラレルワールド6と同じです。同じ回路ですから当然でしょう。周波数特性の測定はサボりましたが、これまたパラレルワールド6と同じような感じです。同じ回路ですから。

 それにしても、長い道のりでした。完成できてよかった・・・。いっぱいブログのネタにもできました。

<パラレルワールド7に関するブログ>

パーツの防振は音に効く

バッテリーを充電する

バッテリーは、まとめて充電しないと面倒だ

プリント基板の裏打ちは音に効く

熱くなるのが問題だ

基板の防振は音にメチャメチャ効く

どうやって載せようか

こうやって載せよう

こうやって載せたのに

バッテリー充電回路の構成

難航中

ぼちぼちと組み立て中

バッテリーを(やっと)接続した

バッテリーの充電電圧:MUSES 03 の絶対最大定格に関して

やっと鳴らせた!

発振を止めたので音を語ろう

パネルを接着した

またまた変更・・・。バッテリー駆動アンプの充電回路

パネルに文字を入れる

パラレルワールド7が完成しました

パラレル“バッテリー”ワールド7の音

 ご笑覧ください。

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