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MUSES 03を用いたパラレル・ワールド5その2

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電源トランス再考

 ラジオ技術誌2018年10月号に発表したパラレル・ワールド5には、新日本無線MUSES 03を8パラレルで使用しました。ヘッドホン・アンプの基板をパラにしてパワー・アンプにするという世にも不思議な、じゃなかった、安易な構成ですが、透明感にもパワー感にも優れるMUSES 03のサウンドがそのままに、スピーカから聞こえるようになります。

 ところが、アンプ記事をラジオ技術に送ったのと前後して、ノグチトランスの閉店が伝えられました。ここ四半世紀くらい使っていただけに、至極残念です。

 それよりも、困りました。製作記事を記すからには「入手できないパーツは使わない」と決めているのですが、ここ数年発表してきたアンプすべてが「入手できない」電源トランス仕様となってしまいます。

 世の中には「電源トランスを変えても音は変わらない」との意見も目にします。しかし、音を聞いたのでしょうかねえ。「変わらない」のではなく、「変わると思ったことがない」あるいは「変わらないと考えたから聞いたことがない」のでしょう。なかには「メーカーがスイッチング電源を使っているのだから、アナログ電源とスイッチング電源の差はない」との記述も目にしましたが、「おいおい、メーカー製品の音質に不満だから自作しているのだろう」とツッコミを入れたくなります。

 脱線しました。「電源トランスは、電源コードよりも音を変える」と断言します。

 ただ、トランスを自作するところまでは、私にはできていません。コイルを巻いたことはありますが、トランスはありません。買い物を聞いて、どれが良いかと勝手な文句をつけているだけです。ですから、「磁束密度を変えると…」「巻き方を変えると…」「コア材質を変えると…」など、技術的なことは何も語れません。

 ですけど、「どっちが好みか」はあります。音が違うのですから。

 

電源トランスの違い

 1990年頃(だったと思う)の経験です。ノグチトランスとラジオセンターの春日無線と東栄変成器、菅野電機研究所、それからタンゴトランスとを比較したことがあります。違うものがあると試したくなる性分です。酒飲みが、いろいろな銘柄を試飲するのと同じノリでしょう。

 で、そのときは春日無線のカットコアがもっともよかった。クリアでバランスの良い音でした。それからタンゴ。音はよく言えばがっちり、悪く言えば鈍重でしたが、しっかりしたトーンバランスでした。

 その次がノグチトランス。スピード感があって、ディテールが聞こえます。ただ、この店のトランスは、ハイ上がりの傾向があります。ソファの下に数えたら16種類ほど転がっていますが、どれも同じトーンです。

 電源トランスは、他社もそうですが、工場毎にトーンがあります。おそらくは設計(巻き方)、コアの形状と材質、巻線の絶縁体、加工工程の違い、が音の違いを作っているのでしょう(思いついた要素を並べただけですから、説明にはなっていませんね。でも、オーディオにおける説明は、ほとんど書き手が思いついたことを並べただけですね)。MCカートリッジ用のステップアップ・トランスでは、銀か銅か無酸素銅かの材質による違いを聞いたこともあります。まあ、電源トランスでは、銀線はコスト的にありません。

 話を戻します。TOEIは、もったりとして鈍い音と感じました。菅野も、鈍くかすんだような音と記憶しています。

 こんな印象でした。が、遠い過去の話です。工場のレシピは同じでも、納入される銅線の製造プロセスも変われば、絶縁皮膜の成分も違っているでしょう。設計者も交代しているでしょうし、あるいは巻線機も代わったかもしれません。

 トランジスタも、ロットで音は変わります。

 これまた前世紀の話で恐縮ですが、NECの2SA1006と2SC2336が好きで使っていました。このコンプリペア、1980年代前半に購入したものは青とグレー、80年代後半に買ったものは緑と黒、90年代に入手したものは、どちらも黒のパッケージでした。青のパッケージの色が気に入っていて、緑になって安っぽくなったと不満だったのですが、作ってみると音が違う。えっ、と思って交換するとたしかに違う。きれいな青色の方が、ほこりをかぶったような、くすんだ音に聞こえます。

 その後、NECがトランジスタの製造を止めると聞き、うわっ、と大人買いしました(いまも押し入れに200個くらいあります)。そのパッケージは黒と黒。黒黒のロットは、緑黒よりも、よりクッキリとした音です。

 半導体メーカーに勤める友人は「そりゃ、変わるはずだよ」と、あっさりと肯定します。「10年前と同じ装置で作ってるはずがない。同じマスクで同じレシピでも、製造装置が異なればいろいろな調整が変わるから、まったく同じにはならないよ」と。

 トランスも、試聴しなければわかりません。

 

なぜ電源トランスが音を変えるのか

 電源トランスも、整流ダイオードも、フィルタ・キャパシタも、そして電圧安定化回路も、すべてアンプの音に影響を及ぼします。なぜなら電圧が一定であったとしても、電源トランスにも、整流ダイオードにも、フィルタ・キャパシタにも、そして電圧安定化回路にも、アンプの信号に応じた電流が流れるからです(第1図)。ですから電源トランスも、整流ダイオードも、フィルタ・キャパシタも、交換するとアンプの音も変わります。

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第1図 電圧が一定となるために電流は信号に応じて変化させられている

 アンプへの供給電流を変化させるためには、電源トランスの出力電流を変化させなければなりません。この電源トランスの二次電流変化は、磁気回路を通過する磁束の変化となります。この磁束と電流の関係は比例ではありません。コアのB-Hカーブに示されるようにヒステリシスを持ちます。非線形です。この非線形変化が、一次側にも伝わると同時に二次側にも跳ね返ります。ですから、電源トランスのキャラクタはアンプの音に大きく影響します。ということにしておきます。

 

電源トランス再探索

 2013年にCQ出版社から『OPアンプMUSESで作る高音質ヘッドホン・アンプ』を上梓しました。残念ながら絶版ですが、こちらのサイトには、あのときより進化したアンプを発表しますから、こちらを読んでください。

 あの本のときには、できるだけ多くの人に作ってもらおうと考えてNovotem-Talema社のトロイダルトランスを使いました。トランスの端子に配線するのは面倒です。トロイダルトランスでは電線が引き出されていますので、少しは楽になります。それにNovotem社のトランスは、トロイダルとは思えないくっきりとした音がしました。チェコ製のときには。

 ところが本を出した後、RSコンポーネンツから届くトランスはインド製になりました。音も変わってしまいました。カサついて、にぶくて、のっぺりとした、まったくもってトロイダルの音です。設計(巻き方)とコアの形状が同じでも、コアと巻線の材質、巻線の絶縁体、加工工程の違い、が音の違いとなるのでしょう。

 RSブランドにもトロイダルトランスがあります(写真A左上)。お値段はNovotemの半分です。が、届いたトランスは、引き出し線の色が違うだけでNovotemインドとそっくり。おそらくあの工場のOEMでしょう。音もそっくり。使えません。

 ところでNovotem社には、樹脂ケース入りのお高い値段のシリーズもあります。もしかしたらチェコ製サウンドかもしれない。と一縷の望みをかけて発注しました。型番は70042K、115 V入力の2×12 V出力、10 VAです。しかし、届いた箱には”Made in India”の文字が…。音も、今回比較した中では最低。伸びのない、いかにもトロイダル的な、ディテールを隠してしまう音です。樹脂製ケースの中身は、同じものなのでしょう。自分でやったこともありますが、トランスをエポキシ充填してもプラスチックケースでは音は変わりません。

 EIトランスを代表して、東栄変成器J-121(写真A左下)と豊澄電源機器HT121(写真A右下)です。どちらも12 V, 1 A。この両者、よく似たサウンドです。区別できないくらいです。帯域バランス的には、どちらもノグチよりも低域が厚く、私の好みに合います。う~ん。もっと早くに試聴すべきだった。大きな差ではありませんが、豊澄の柔らかな弦の音に軍配を上げます。

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写真A 左上 Novotem-Talema、右上 RS pro

左下 TOEI、右下 Toyoden

 ドイツBLOCK社FLシリーズは、平べったいプリント基板用トランスです(写真B)。結論からいえば、今回試した中のベストです。帯域バランスがよく、変な響きが付け加わらない。なによりも透明感に優れます。おそらく、と考えて工業用レントゲンで透視しました(第2図)。思ったとおりカットコアです。

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写真B Block社FLトランス

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第2図 FLトランス透視図(上:上面より、下:側面より)

 後述する経過のため、容量の異なるFL 10/12, FL 14/12, FL 24/12と電圧の異なるFL 14/15, FL 24/15の5種類を試しました。FLトランスは、すべて同じ底面形状で、写真Bに示すように厚みだけが異なります。これは実装する側にはありがたい。取付基板も同じにできます。思ったとおり、トーンも同じ傾向です。弦の響きがしなやかで、女性ヴォーカルがなまめかしい。大きい方が音にもゆったり感があります。クオリティの差はありません。

 RSコンポーネンツのサイトには、RS proブランドのカットコアらしいトランスがあります。で、これも買いました(写真A右上)。RS 121-3855は30 VA, 2×12 Vのポーランド製。お値段もBLOCKよりお財布に優しい。しかし、音は耳に優しくない。帯域バランスは悪くないのですが、全帯域に渡ってカサつくというかザラつく感じがします。ヴォーカルの透明感が失われます。却下。

 

アンプの最大出力

 MUSES 03ヘッドホン・アンプ基板を2枚使用したパワー・アンプは、電源電圧によって出力が決まります(第3図)。4Ω負荷での実測値は±12 Vで4.0 W、±14 Vで4.9 W、±16 Vで5.7 W、±18 Vで6.4 Wです。

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第3図 基板枚数と最大出力

 出力だけを考えれば、シリーズレギュレータで±18 Vを供給すればよいのですが、音的にはやりたくありません。電源のリプルを見えなくしたところで、耳に聞こえる音がよくなることはまずありません。電子ボリュームICは例外ですけど。せっかくですからレギュレータレスで進めます。

 レギュレータを使わないとなると、MUSES 03の絶対最大定格を超えないようにできるだけ高い電源電圧とする、との厄介な設計をしなければなりません。

 パラレル・ワールド5で使用したノグチトランスPM-121は、定格12 V, 1 Aでした。電源電圧は無信号時には±16.6 Vありましたが、最大出力には±15.1 Vまで下がり、最大出力は4.9 Wでした。トランスを交換するにしても、同じだけの最大出力は欲しいところです。

 さて、海外製の電源トランスを使うときには、電圧の違いが影響します。いうまでもなく日本の商用電源は100 Vです。世界的には最低の電圧です。欧州のトランスは、彼の地の電源電圧に合わせて一次巻線230 Vとなっています。あるいは、アメリカもターゲットに含めた115 V / 230 Vとなっています。FLシリーズも、一次は115 Vが2巻線です。電圧の低い日本で使用しても安全上の不利益はありませんが、定格電圧は15 %ダウン、それ以上にレギュレーションが悪化します。

 最初、PM-121が12 VAだからちょっと足らなくてもなんとかなるかな、と考えて10 VAのFL 10/12を試しました。音は、それにどこかの帯域を強調したような響きがない。とにかくバランスがよい。

 ですが、無信号時には±16.9 Vあった電源電圧は出力とともに下がり、最大出力のときには±10.4 V。たったの3.0 Wしか出せません。これはアンプの能力の半分です。もったいない。

 ならば14 VAではどうだろう、とFL 14/12を入手しました。PM-121は12 VAなのですから、電源電圧の差分は下回りますが、ほぼ同じ容量です。しかし無信号時の±16.7 Vは最大出力時には±11.3 Vに下がって3.7 Wです。足りない。

 それならばと24 VAのFL 24/12を試しました。それでも無信号時の±15.5 Vは最大出力で±13.1 V。出力は4.2 Wです。まだ足りない。

 

電圧リミッタ回路

 一次電圧115 Vに対しての二次電圧12 Vのトランスでは、無信号時の電圧も低く、最大出力時にはまったくもって電圧不足です。かといって二次電圧15 Vのトランスとすれば、無負荷時にはMUSES 03の絶対最大定格を上回ります。電圧安定化回路を用いて下げれば簡単ですが、「使いたくない」とのヘンなこだわりが足を引っぱります。

 そこで考えたのが、第4図の電圧リミッタ回路です。整流回路に並列に挿入し、DC電圧が高いときに電流を消費して下げてやろうとの目論見です。トランスの二次巻線の抵抗を利用したシャントレギュレータと考えることもできます。が、定電圧負荷といった方が動作を正しく表しているでしょう。シャントレギュレータNJM 1431で設定した電圧を超えたときにpnpトランジスタに電流を流し、電力を消費します。

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第4図 電圧リミッタ回路

 第5図にFL 24 /15トランスを用いた整流回路の出力電流対電圧特性を示します。一次電圧は100 Vと110 Vで計りました。電源電圧110 Vまでの動作を保証するためには、この状態でもMUSES 03の絶対最大定格±19 Vを超えないようにしなければなりません。ですから電圧リミッタには、300 mAをシンクできる能力が必要となります。

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第5図 FL 24/15トランスの出力電流対出力電圧特性

 ここで第4図のpnpトランジスタには、アンプ回路の電源電流の変化がそのまま流れます。ですから、選定は重要です。信号系に使ったときと同じく、というよりも、すべての増幅段での変化が加算された電流が流れます。ですから、一段の増幅段を担うよりもはっきりとトランジスタのキャラクタが聞こえます。

 パワー・アンプの出力段と同じく、コレクタ損失Pcが20 Wを超えるトランジスタに使えるモノはありません。本音をいえば10 W以下にしたい。しかし、良かったトランジスタはみんなディスコンになってしまいました。

 ですので、ここは東芝の2SA1930しかありません。このトランジスタもディスコンですが、まだまだ流通しているようです。300 mAの電流を消費させるとしたら19 V×0.3 A = 5.7 Wです。ケース温度25℃でのPc = 20 Wですから、ヒートシンクさえ十分確保すれば問題ありません。

 でも、トランジスタをギンギンに熱くしたくはないところです。そこで、pnpトランジスタのコレクタとGND(または-Vcc)の間に抵抗を入れて電力消費を分担させました。第4図のR7とR8です。ところが、この抵抗が思いもかけず音に影響しました。

 はじめは、安価なメタルクラッド抵抗を使いました。Vishay-Dale RH-25です。電圧調整のためケミコンに並列にシャント抵抗を入れたことは何度もありますし、その抵抗をNS-2Bと酸化金属皮膜と誘導巻のホーロー抵抗で比べたこともあります。が、違いは聞こえません。なら、安価なメタルクラッドで良いだろう。と、経験に引っぱられてしまいました。直列にするトランジスタにはこだわったのに。まあ、こちらも経験に引っぱられたのですけど。

 試すと動作は想定どおり。ところが音は想定外。良い方にです。FLトランスそのものが透明感の高い再生音を聞かせてくれるのですが、電圧リミッタを用いると、さらに晴れ渡ります。高域のクリアさが違います。一聴してわかります。

 だいたい、オペアンプは電源電圧を高くした方が、クッキリとした音になります。アナログ電源をお持ちでしたらお試しください。MUSES 03といえども、電源電圧を下限の±3.5 Vから上限の±18 Vに上げれば、さらにスッキリハッキリした音になります。ですけど、±15 Vから±18 Vに上げても、気のせいかな、くらいの差です。ところが電圧リミッタの差は、それどころでない。

 では、電源電圧を一定に保ったことによる効果か。それも考えにくい。40年くらいアンプをやっていますが、まだ、考えただけで音の善し悪しを決められるだけの悟り、じゃなかった、経験を積んでいませんので、試すたびに聞いています。自分でいうのもなんですが、レギュレータも、かなりいろいろと試してきました。ですけど、これだけ変わったと感じた経験はありません。それとも、いままで試してきたシリーズレギュレータとシャントレギュレータが、全部プアだったのか…。

(何ヶ月か後に考えがまとまったのですが、電圧リミッタ回路は“レギュレータ”としては動作していません。電圧リミッタ回路は、電源のリプル電圧を減少させることはできません。ピーク電圧を制限するだけですので、ピークからの降下電圧は、依然としてケミコンの容量に依存しています。ですから、“レギュレータ”の音を感じさせないのでしょう)。

 と考えていて、トランジスタにはこだわったのに直列に入っている抵抗を無視していたことに、やっと気づきました。電源電圧が一定になったとしても、オペアンプの電源電流の変化はそのままトランジスタに流れます。と判っていたのに、この電流がそのままメタルクラッド抵抗にも流れることを無視していました。「できの悪い奴ほど、考えついた“ひとつ”のことですべてを説明しようとする」。恩師の言葉を思い出します。修行が足りません。

 案の定Vishay-Dale無誘導巻メタルクラッド抵抗NH-25に変えると、高域がさらに伸びたかのようにクッキリとします。アンプで使ったときと同じ傾向の変化です。やっぱりそうか。

 これだけ音に影響するのなら、NS-10を投入するしかありません。シャーシに固定できないことに躊躇していましたが、まあ、6 Wの消費電力ならなんとかなるでしょう。試聴すると想定どおりの変化です。透明感がさらにアップします。

 ここで、R7とR8は大きくした方がトランジスタの消費電力を減らせるのですが、同時に最大シャント電流も制限されます。第5図の特性より、±18 Vにて330 mAを流すと考えて47 Ωとしました。手元にあったので片チャネルは50 Ωを使っています。どちらでもOKです。

 余談ですが、R7とR8はなくても動作します。抵抗を省略できればコストダウンできます。で、聞いてみました。結果は…。笑ってしまいました。チャラチャラした軽い音です。抵抗を入れたことがクッキリとした重心の低い音につながったのでした。アンプの定電流負荷もトランジスタから抵抗に変えるとクリアになりますが、同じ傾向です。

 

回路構成

 第6図に本機の回路(片チャネル)を示します。電源トランスはBLOCK FL 24/15をプラスマイナスそれぞれに使用しました。

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第6図 本機の回路(片チャネル)

 ヘッドホン・アンプ基板SKHP-03E(モデルチェンジしてSKHP-03E2となっています)は、左右にそれぞれ2枚使用します。基板はそれぞれ、入力のLINとRIN、出力のLOUTとROUTを接続してモノラルとして使います。左右それぞれの1枚には、入力抵抗としてNS-10 の10 kΩを用いました。また、1枚には出力に8.2Ωと0.01μFを直列としたゾベルフィルタを入れました。

 

組立

 ケースはタカチ電機工業UC32-8-24DDです。フロントとリアのパネルには3tの真鍮板を貼り付けています。フロントパネルは音には関係ないと思いますが、電源スイッチを押したときのペラペラ感をなくせます。

 シャーシも3tの真鍮板で作りました。第7図に加工図を示します。穴はM3のタップを立ててあります。ケース下カバーの上に置き、タカチUCK-P42のネジをΦ3.2のドリルで潰したものを用いて固定しています。

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第7図 シャーシ加工(穴はすべてM4)

 アンプ基板は5 mmのスペーサを用いて固定します。こうすると、ソケットに載せたMUSES 03の上にM6×55 mmのスペーサを載せて、その上に3 mmのソルボセインを載せてフタを閉めるとピッタリになります。

 トランスは専用基板(SK_FL_TRANS)に取り付けて、基板を35 mmのスペーサ(最上段のみ32 mm)で結合して、シャーシへは10 mmの立方体形のスペーサ(廣杉計器VAB-310Eのネジ穴を一つ潰したもの)を用いて固定しました。

 トランス基板SK_FL_TRANSは、じつは整流ダイオードを取り付けられるようにしてあるのですが、先に作っていたのと、圧着端子を使わなくて良いので、ブロック・ケミコンに取り付ける整流基板(SKHBR-7001A)を使いました。ダイオードはJRCのNJD 7002です。

 SKHBR-7001A にはTO-247のMUSES 7001とSSOP-8のNJD 7002とTO-220のSCS206のいずれでも載せられます。さらにはLEDも付属しています。赤と青のLEDで、どちらのケミコンがプラスかマイナスかもわかります。それから、ケミコンが充電されていることもわかります。さらにその上、キャパシタの放電もしてくれます。音には関係しませんが、作るときにメチャ便利です。

 しかし、またもや残念なお知らせです。MUSES 7001は製造中止とのことです。さすがに@2,500円は高すぎたか。

 電圧リミッタ基板(SK_V_Limit)もVAB-310Eを用いて垂直に立てました。NS-10の発熱は6 W弱ありますので、基板の裏側に、フロントとリアのパネルに接触するくらいに取り付けました。パネルには固定していませんが、輻射熱をそこそこ持って行ってくれます。写真Cに示すように、12 mmのスペーサを基板に取り付けた状態でNS-10が机面に接するようにして組み立ててから取り付けます。トランジスタは、シャーシに固定して放熱させています。なお、基板の上側にも12 mmのスペーサを取り付けていますが、サブパネルには固定していません。

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電圧リミッタ写真

​写真C 電圧リミッタとトランスの取付

​ シャーシへは、どちらかのチャネルの入力端子のGNDから1点アースとします。片チャネルは、シャーシ電位とごく僅かの差が生じますからノイズが増えますが、聞こえないので良しとします。配線には共和ハーモネットUL3265-24を使っています。音的にはそれほど良くもないケーブルですが、嫌な音はしないです。

 基板の配線が終わったら、MUSES 03を挿入しない状態で、電源電圧を確かめてください。本機での実測値は、すべて±17.9~18.1 Vに収まっています。確認後にMUSES 03を挿入し、M6スペーサを瞬間接着剤で接着します。前回は両面テープを使いましたが、接着力不足でした。

 念押しですが、MUSES 03を乗せるICソケットに、秋月電子で抱き合わせ販売しているモノは使いません。PreciDipと比較試聴していただければ理由は聞こえます。挿入するときに感触と同じく、音も貧相になります。

 

おわりに

 最高出力は4Ω負荷にて5.3 W。このときの電源電圧は±15.2 Vまで下がっていました。ノグチPM-121 を使用していたときの4.9 Wを、かろうじて上回りました。ですが、トランス容量は12 VAから24 VA、電源電圧の違いを計算に入れても18 VAはあるはずです。これだけアップしたことを考えると、電源トランスのレギュレーションが悪すぎるような気もします。

 まあ、低域の厚みが増して弦楽器がしなやかに聞こえるのですから、それでよし。電源トランスの音はレギュレーションという特性で表せる、と「考えついた“ひとつ”のことですべてを説明しようとする」ほどに私は単純ではありません。それに、概してレギュレーションの悪い方がクッキリとした音を聞かせてくれます。

 それから、ひずみ特性では、この違いは説明できませんね。なぜなら、基板は、2018年10月号のパラレル・ワールド5そのままです。

 電源トランスに端を発しましたが、万事塞翁が馬。Block FLトランスと電圧リミッタによって、MUSES 03の解像力をより感じられるアンプになりました。もともと細かな音の再現に優れたアンプでしたが、さらに音楽に浸れるようになりました。

 第1表に本機の使用部品を示します。パーツの代表的入手先も記しました。未記入のモノは汎用品で構いません。入手できないパーツ(2019年1月現在)は使っていません。

 大ベテランのK氏には「隅々まで粒立ちのいい音がとても印象的」とお褒めの言葉をいただきました。お薦めできるパワー・アンプです。

第1表 使用部品

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(掲載 ラジオ技術2019年1月)

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