A級アンプ幻想(その1)
- Toshiyuki Beppu
- 2021年1月31日
- 読了時間: 3分
更新日:2022年1月17日

パワーアンプ出力段のトランジスタに、どれだけのアイドリング電流を流すか。それによって音が変わるとの説です。この説を否定はしません。私が聞いた限りでも、差は感じられました。
否定するのは「A級アンプのほうが音がよい」との幻想です。
まず、混乱を招かないため、話題を明確にします。ここではトランジスタアンプの出力段について議論します。それから、用語です。
A級:出力段のプッシュプル増幅回路において、npnとpnpの両方のトランジスタが常にonとなる動作状態。最大振幅まで両方のトランジスタのon状態を継続させる(どちらのトランジスタもカットオフさせない)動作点のアンプを「A級アンプ」とよぶ。A級動作とするためには、アイドリング電流を最大出力電流の1/2以上に設定する。

B級:出力段のプッシュプル増幅回路において、npnとpnpのどちらか一方がonのとき他方はoffとなる動作状態。プラスの振幅時にはnpnトランジスタが負荷に電流を流し込み(pnpトランジスタはoff)、マイナスの振幅時にはpnpトランジスタが負荷から電流を吸い込む(npnトランジスタはoff)。ただし実際上は、スイッチングひずみを防ぐために、無信号時に双方のトランジスタがonになるだけのアイドリング電流を流す。このため、最大振幅の1~2%付近まではA級動作となっている。

AB級:A級とB級の間の動作。振幅の10~50 %くらいの範囲までA級動作し、それ以上をB級動作となるように動作点を設定した回路。
さて、「A級の音がよい」との説にはかならず、「B級はスイッチングひずみが発生する」との説明が付いてきます。しかし、この説明は二つの点で“まやかし”です。
まず、B級でもスイッチングひずみは発生しません。上記の説明のとおりです。さらに、musesオペアンプを例にあげるまでもなく、オペアンプの出力段はすべてB級です(その証拠に熱くなりません)。ひずみ率も極めて低い値です。(B級のオペアンプを電圧増幅に用いたA級アンプなるものを散見しますが、信じている本人は幸せですね。脱線しました)。
また、1%や2%のスイッチングひずみが発生したところで、それを「ひずんだ音」とは感じません。これは、期せずして聞いてしまいました。
大学生の頃(昭和の時代です)、オシロスコープは高くて買えませんでした。そのため、大学の実験室にアンプを持ち込んで測定していました。あるとき、試作アンプを計ると、みごとにスイッチングひずみが!
ところが、このアンプ、シャリシャリした音でしたが「ひずんでいる」とは感じませんでした。私だけでなく、友人たちにも「ひずんでいる」とは指摘されません。記憶を頼りに図にしますが、このくらいだったかな。合成した音もアップします。
如何でしょうか。「ひずんだ音」と感じられたでしょうか。比較のために、こちらはサインウェーブ。
定説に付随してくる「スイッチングひずみによって音がひずむ」との「説明」が眉唾であることは、おわかりいただけたと思います。音色は変化しますが、「ひずんでいる」と指摘できる人は、まず、いません。それに、B級アンプでは必ずわずかのAB級にするのですから、波形が見えるほどにひずむこともありません。
このように、A級がよいとする「理論的」説明はまやかしです。では、聴感的にはどうでしょうか。
(その2へつづく)