『「コンセントの向き」「音」』とネット検索すると、いっぱい出てきますね。数えたわけではありませんが、向き(極性)で音が「変わる」が多数派のようです。でも、少数ながら「変わらない」派もあります。
それぞれに書かれた方の聞かれた判断でしたら、尊重します。私の経験でもコンセントの向きに関しては、機器や場所によってまちまちです。一瞬にして「こちらがよい」とわかることもあれば、「う~ん、こっちかなあ」あるいは「よくわからない」こともありました。
でも、どこかの誰かの書いたモノを、そのままホームページやブログに丸写ししている人も少なくないようですね。自分で聞いてもないのに、よく書けるなあ。コピペは著作権違反だろう!
そういえば以前、某ショップの店長さんからこんな笑い話を聞きました。「『○○より□□のほうがよい音がする』とある人に言ったら、後日その人から電話がかかってきて『○○より□□のほうがよい音がするぞ。オマエ知ってるか?』って。オレが教えたことじゃん」
不思議なことに、聞かないで判断する人は、少なからずいるようです。ある大先輩は「理論的によい音」と笑い飛ばしていましたが、耳で聞かないで頭で考えただけで音を決めつけて、なにが面白いのでしょうねえ。酷いサイトになると「聞いてわからなくても、こうしたほうがよい」だそうです。自分の感覚を否定するような人が音を語るなんて,支離滅裂ですね。
誰かの意見をそのまま信じてしまうのも同類。知らない誰かが「こう書いていたから」これが「よい」と信じられる人を、私は信じられません。
それに、他人の意見をすり込まれる人たちは、自分で聞かない。それでいて、その他人と私が違うことを言えば「おまえは間違っている」と文句をつけてきますね。そういう人とはお友達になりたくない(笑)。
とまあ、偉そうなことを書きましたが、私も評論家大先生のご宣託を信じて“銘機”を買っていた時代もありますので・・・。40年くらい前までですけど。
ところで、耳で聞く人か、頭で聞く人か。それをどこで見分けるか。これは簡単です。
頭で聞く人たちは「音がよい」とは言うのですが、「どうよかったか」は語ら(れ)ない。ただ「音がよくなる」としか言いません。これに対して耳で聞く人は「低音がバリバリ出てくる」とか、「音が痩せている」とか、「なまめかしさがない」とか、「どう違うのか」を語り(れ)ます。某友人は「『○○の音がよい』とチャットしてきた人に、『どうよかったのですか?』と尋ねたらブロックされた」と笑っていました。
さらにいえば、頭で決める人たちは、一つのことだけを取り上げて“えせ理論”を語ります。なぜなら、その“えせ理論”で決めているからです。たとえば「パワーアンプの出力段をパラレルにすると、アンプの出力インピーダンスが低くなるからウーファの制動がよくなる」みたいな意見です。そこにウーファの制動がよくなったという実験結果は示されていません。(もともとフィードバックによってアンプの出力インピーダンスは下げられているのですから、パラレルにしても振動板の動きの違いは観測されません(借りてきたレーザー距離計で測ったことがあります)。ですから「制動がよくなって」はいないのです。ただし、音が変わることは認めます。パラレルにしたほうが、ざわざわして、平面的な音になってよくない)。
それと、もうひとつ。耳で聞いて判断する人たちは、「○○と△△を比べたときはこれくらいで、□□と比べたときは、それよりは差が小さかった」のように「違いの程度」を語れます。これも、頭で考える人にはわからない感覚ですね。
まあ、他人がどう言おうと、音は自分で聞かなければわかりません。自分の耳で確かめなければ、どこがどれだけどう違ったのか、わかるわけがない。
ゴタゴタ並べましたが、コンセントの向きについては、私は多数派です。
「どう違うのか」ですが、音の広がりというか、質感が変わったように聞こえます。向きを変えると、平板的になったり、ふくらみが感じられたり、あるいは、動きの悪い音になったり、躍動感が感じられたり、のように差を感じます。
「どのくらい違うか」は、場所と機器によります。あるところでは、スピーカケーブルを交換したくらいに感じました。拙宅では、回路上のそれほど音に影響しない箇所の抵抗を交換したくらいの感じです。たいして大きくはない。
では、なぜコンセントの向きで音が変わるのか。
あちこちのサイトで記されているのですが「商用電源と回路GND(シャーシ電位)との間のストレー・キャパシタンス(浮遊容量)による結合」との説に賛同します。念のために説明しますが、ストレー・キャパシタンスとは、回路図上にはキャパシタが入ってないのに、点と点(線と線)の間に何らかの影響を及ぼす容量(キャパシタンス)です。厳密にいえば、あらゆる線の間にストレー・キャパシタンスはあります。でも、影響がないから製作上は無視します。
ただし、あちこちのサイトに書かれている「地面に対する電位」が音に影響するとの説明には、賛成ではありません。書いた本人は信じているのでしょうけど、私には説明になっているとは考えられません。
まずは、図1をご覧ください。とあるパワーアンプの回路GND電位です。オシロスコープのGNDは、我が家のアースにつないでの観測ですから、対地面電位です。
黄: AC 100 V(ホット側)電位
青と白:コンセントの向きを変えたときの回路GNDの対地面電位
です。回路GNDは、コンセントの向きによってピーク電圧で 30 V くらい変化しています。周波数は電源周波数 (60 Hz) と同じですが、ACとは波形が違っていることも、位相がズレていることも確認できます。
図1 あるアンプの対地面電位
図2は、別のEVRでの観測です。図1と同じく、
黄: AC 100 V(ホット側)電位
青と白:コンセントの向きを変えたときの回路GNDの対地面電位
です。このEVRでは、青と白のトレースはほとんど重なっています。つまり、コンセントの向きを変えても回路GNDの電位はほとんど同じです。レンジを拡大して観察すると、ピークで3 V くらいの差でした。
図2 図1とは別のアンプ(EVR)の対地面電位
申し添えておきますが、図1と図2の対地面電位の振幅はどちらも、私がアンプのケースに触れると10 % くらい減少します。もちろん、私は地面に裸足で立っているのではありません。木造家屋の木の床で椅子に座っていました。それでも、誘導によって変化します。つまりは、電源コンセントと回路GNDとの間のストレー・キャパシタンスは、かなり小さなものです。
ちなみに、我が家の商用電源(AC 100 V)の二つの端子を観測したモノが波形が図3です。
黄: ホット側
青:コールド側(レンジは10倍)
コールド側は 3V くらいあります。コールド側は電柱のところでの接地ですが、建物のアースは、建物の近傍での接地です。両者の接地点間にも抵抗があります。ですから、電位差もあります。
図3 我が家の商用電源の対地面電位
それでは、考えてみましょう。
(1) 地面と接続されているわけでもない回路GNDの電位(対地面電位)が、地面に対して動いたとして、なぜ(どんなメカニズムで)音が変わるのでしょうか。
(2) 対地面電位の小さい方が「正しい(音のよい?)極性」とされているのですが、仮にそうだとして、なぜ(どんな理由で)「正しい」と判定できるのでしょうか。
それから、これらの疑問を考える前に、もうひとつ。
(3) 図1と図2のアンプでコンセントの向きを変えたときに、私は、どちらの音の変化を大きいと感じたでしょうか。どちらの音を「よいと感じた」か、ではありませんよ。
では、(3)の私の感覚から。
どちらも、「大きな差ではないが、違いはあるな」程度に感じました。どちらかといえば、向きを変えたときの電圧変化の小さかった図2のEVRのほうが、音質変化を大きく感じました。もちろん、観測波形に判断が引っ張られないように、試聴を先に、後で波形観測をしました。
どんな風に音が違って聞こえたかですが、図1のパワーアンプでは、音と音の隙間が埋まるように感じたのが対地面電位が小さいほうで、図2のEVRでは、響きがよりホンモノらしく聞こえたほうが対地面電位のわずかに大きいほうでした。
ところで、この試聴は、図1のパワーアンプと図2のEVRにCDプレーヤの3台を接続して実施しました。そのときの対地面電位を示します(図4)。
ピンク: AC 100 V(ホット側)電位
白:ベストの組み合わせ状態(EVRのコンセントを逆向きにしても、トレースの変化は観測されなかった)
黄:パワーアンプのコンセントを逆にしたとき
です。EVRのコンセントを逆向きにしても振幅の変化は観測されず、パワーアンプのコンセントを逆にしたときには振幅がわずかに大きくなり、波形も変化しました。
図4 CDプレーヤとEVRとパワーアンプを接続したときの対地面電位
いうまでもありませんが、図4の対地面電位は、パワーアンプで測定してもEVRで測定しても同じです。2点の電位が同じであれば、その間には電流は流れないような錯覚に陥るところですが、念のためにいいますが、錯覚です。もともと2点の電位は異なりました。それが同一になったのです。なぜなら、接続したことによって2点の間に電流が流れたからです。
ただし、残念ながら私の測定器では電流の大きさは測れません。2台のGNDを100 kΩで接続しても、電位差はノイズレベル以下でした。つまりは、数十pA以下。ロックインアンプがあれば測れるかな。
ですので、2台を接続しない状態での対地面電位(黄:EVR、青:パワーアンプ)とその間の電位差(赤)で考えます。以下の観測(図5)では、電位差がわかりやすいように、対地面電位のレンジを拡大しています。商用電源の電位(ピンク)がコールドになったりホットになったりしていますが、これは、観測波形を区別するためで(というのは後付けの理由で、オシロスコープのプローブをつなぎ替えてないだけです)特別な意味はありません。いずれもオシロスコープの内部でAC同期をかけての観測ですので、位相的なズレはありません。
以下、コンセントの向きを変えたときの、アンプ単体での対地面電位のピークに基づいて「大」「小」と表します。
まずは、聴感上ベストの状態です(図5(a))。
黄:EVRのGNDの対地面電位(単体で大きくなったコンセント向き)
青:パワーアンプのGNDの対地面電位(単体で小さくなったコンセント向き)
赤:2台のGND電位差
ピンク:AC 100 V(コールド)
パワーアンプとEVRのGNDの対地面電位は、振幅はほとんど同じで、位相が若干ズレています。図5(a)から(d)の中で、2台の間のGND電位差(赤)は、このときのコンセントの組み合わせが最小でした。
図5(a) EVR:大、パワーアンプ:小
つぎに、EVRのコンセントを反転させて、EVR(黄)とパワーアンプ(青)のいずれも小の向きとしたときです(図5(b))。
黄:EVRのGNDの対地面電位(単体で小さくなったコンセント向き)
青:パワーアンプのGNDの対地面電位(単体で小さくなったコンセント向き)
赤:2台のGND電位差
ピンク:AC 100 V(ホット:EVR内の端子にプローブを接続しているため、EVRのコンセントの向きを逆にすると、コールドからホットになった)
EVR(黄)の対地面電位波形はわずかに振幅を狭めています(青のトレースは図5(a)同じですので、それと比較するとわかります)、電位差(赤)はわずかに振幅拡大しています。また、図5(a)と比べると、位相もズレていることがわかります。
図5(b) EVR:小、パワーアンプ:小
それでは、パワーアンプのコンセントを大の向き、EVRは小の向きとしたときの電位です(図5(c))。
黄:EVRのGNDの対地面電位(単体で小さくなったコンセント向き)
青:パワーアンプのGNDの対地面電位(単体で大きくなったコンセント向き)
赤:2台のGND電位差
ピンク:AC 100 V(ホット)
図5(a)や(b)に比べ、パワーアンプ(青)の対地面電位が大きくなり、電位差(赤)も拡大しています。
図5(c) EVR:小、パワーアンプ:大
最後に、どちらも大の向きとしたときです(図5(d))。
黄:EVRのGNDの対地面電位(単体で大きくなったコンセント向き)
青:パワーアンプのGNDの対地面電位(単体で大きくなったコンセント向き)
赤:2台のGND電位差
ピンク:AC 100 V(コールド)
EVR側の変化が小さいので顕著ではありませんが、電位差は図5(c)と比べ、わずかに減少してみえます。
図5(d) EVR:大、パワーアンプ:大
それでは、(1)と(2)を考えましょう。ネットをざっと見た限り、これらの疑問に答えている説明はみつかりません。「電圧が小さい方がよいに決まっている」式の「頭で考えた答」はあります。ただ、それらも、どこかからの書き写しのように思われます。元ネタは発見できていません。
ご覧戴いたように、回路GNDと地面の間には電位差があります。
「この電位差は、電源トランスの2次巻線の中点、すなわち回路GNDと、1次巻線のホット側C1とコールド側C2とのストレー・キャパシタンスの差があるために(と考えていたのですが、測定したところ、この仮説は正しくありませんでした。続編で説明しています)、1次巻線のどちら側が商用電源のホット/コールド側に接続されるかによって変化します(図6)」
図6 対地面電位が発生するメカニズム(この説明はよくない)
「このストレー・キャパシタンスC1とC2は、機器によって(電源トランスによって)異なります(この説明は問題あり)」
アンプごとに対地面電位VGNDが異なるのですから、複数のアンプを接続すれば、GNDラインに電流IGNDが流れます(図7)。コンセントの向きによって、IGNDは振幅も波形も位相も変化します。このように、機器間のGND電流が変化するのですから、音が違っても不思議はありません。
図7 機器の間にはGND電流が流れる
つまり、電位で考えた(1)と(2)の設問は、問題の捉え方を誤っていると考えます。対地面電位VGNDの大きさが問題なのではありません。機器間の対地面電位の差、すなわち、GNDを流れる電流IGNDが音に影響すると考えるほうが、合理的に説明できます。
もう少し、理論的に考えてみましょう。ストレー・キャパシタンスC1とC2による対地面電位VGNDは、
となります。つまり、ストレー・キャパシタンスの比によって対地面電位が決まると思われます(実際のところ、この式では説明がつきません。なぜなら、図1や図2の対地面電位には、AC電位との位相差があります。ところが、この式には位相項はありません。おそらくは、電源トランスの巻線インダクタンスや整流方式も関係すると思われます)。
では、回路GNDの対地面電位 VGND を小さくするにはどうするか。
簡単です。商用電源のコールドにつながる側(図5では C2)の容量を大きくすればよいのです。波形は示しませんが、そのとおり(つまりGNDレベルになる)に観測されます。このとき、音がよくなったとは感じられません。その理由は、この方法では機器間のGND電流IGNDを減らさないためと考えます。
他にも、対地面電位を下げる方法はあります。アンプを3Pのコンセントにして、3Pの真ん中の端子を回路GNDと接続します(図8)。
図8 3Pコンセントで接地する
ところが、これはたいてい、音を悪くします。コンセントの向きのよくないほうと同じく、平板的な動きのにぶい音になります。なぜか。この方法ではIGNDを減らせないどころか、電信柱の接地点と建物の接地点の間の地面電流I地面までもIGNDに流し込むから、と説明できます。
余談ですが、私のアンプでは、3Pプラグの中点をどこにも接続しません(図9)。過去に、3Pのアースをつないで音がよくなった経験がないからです。
図9 回路GNDは地面につながないように私はしている
以上のように、コンセントの向きによる音の違いは、機器間のGND電流に起因すると考えると、いろいろと納得できます。対地面電位の低いほうがよい(正しい)のではなく、機器間の電位差が小さいほうが音質劣化が小さいのでしょう(今回はたまたまそうなっただけかもしれませんが)。
どのコンセントの向きの組み合わせがよいのか、つまり機器間のGND電流を小さくできるかは、試すしかありません。図5(a)に示したように、機器のGNDの対地面電位が小さいほう同士よりも、より IGNDが小さくなる組み合わせはあります。
交流ですから、位相差もあります。機器ごとに対地面電位の位相も異なります。平均電位が同じであっても、位相差があれば、そこで電流は流れます。ですから、「テスターで電位を測って少ない方の組み合わせにする」とのやり方でも、あるいは、「プラグ極性が示された機器」でも、組み合わせによっては反転させたほうがよく聞こえて不思議はありません。(コンセントが逆向きに配線されていると決めつけている酷いサイトもあります。測定もしないで、適当なことをよく書けるなあ。まともな工事屋さんでは、あり得ない)。
結論です、音は自分で聞かなければわからない。
(続編はこちら)