A級アンプ幻想(その2)
- Toshiyuki Beppu
- 2021年2月6日
- 読了時間: 3分
更新日:2022年4月10日

(その1はこちら)
「石でもタマでもA級でよかったことは一度もない」と断言されたのは鬼才石塚峻氏です。球のベテラン是枝重治氏も「A級はどうもいい音がしない」とおっしゃられていました。
現在の再生技術を全面的に再検討する(アンプ編②)、ラジオ技術1992年12月、pp.15 - 30
私は、球でA級とB級を比べた経験はありませんが、石ならあります。A級アンプを使っていた頃に試しました。「A級がよい」との説明を信じて作ったのですが、聞いているうちに“どれくらい”よいのか、との好奇心が頭をもたげてきました。
タイトル図の回路の半固定抵抗を回してバイアス電流を調整します。バイアス電流がどこまで減ったかは、出力段のエミッタ抵抗の電圧を測ればわかります。きっと悪くなると信じていたのですが、B級にしてもほとんど音は変わりません。わずかですが、B級にしたほうが霧が晴れて姿がはっきりするように感じました。
その後、抵抗でいろいろと音が変わることを経験し、さらには、半固定抵抗は固定抵抗と比べてよくないことも知りました。バイアス調整回路も半固定抵抗を固定抵抗に交換すると、それまでのブヨブヨとした不明確さがなくなり、クッキリとなります(さらにいえば、この電圧源に良質の大容量キャパシタを並列にするとよくなります)。
ですから、半固定抵抗と固定抵抗の違いに比べれば、A級かB級かなど、どうでもよい差だ、というのが私の印象です。簡単にいえば、アイドリング電流を調整するために半固定抵抗を使ったA級アンプよりは、固定抵抗でアイドリング電流を決めているB級アンプのほうが音がよい。ですから以後は、バイアス電流調整用の半固定抵抗を入れたアンプを作ったことはありません。固定抵抗を使って、カットオフしない程度の適当なB~AB級にしています。
それでは、A級はB級に比べて音が良くないのは、なぜでしょうか。理由は「二つのトランジスタ同時に動くから」と考えます。
パワートランジスタの音に失望して、ドライバークラスのトランジスタをパラにしたパワーアンプを組んでいました。このときにパラ数を増やすと、ディテールを失った躍動感のない、平面的な音になります。試しに5パラで組んで、一つ一つ外したこともあります。外す毎に、音の細部が戻ってくるように感じます(最終的には出力との兼ね合いで3パラくらいで使っています)。
また、終段のパワートランジスタをパラレルにして出力を稼ぐアンプは少なくありません。ところが、例外なく躍動感を失った色彩感のない音になっています。楽器の音色の差をなくして、何を聞いても同じような音に感じさせてくれます。
これは、トランジスタをパラレルにしていることが原因と考えます。たとえ同じ型番のトランジスタであっても、hfeにバラツキがあるように、特性は完全に一致はしていません。同じ特性でないということは、同じ入力に対して僅かですが、異なった波形を出力します。この異なった出力を強制的に合成しているために、元々の信号に含まれている微細な変化を失わせると思います。
また、この経験から、A級も同じ理由で音のディテールを失わせると類推します。A級は常に二つのトランジスタが動いています。しかも、npnとpnpという異なった特性のトランジスタです。異なった出力を、無理矢理一緒にしています。これに対してB級は、npnとpnpが交互に負荷をドライブします。ですから、A級よりもクッキリとした音を聞かせてくれるのでしょう。
でも、この説明は、証拠のない空論ですね。「常に二つのトランジスタが動いているから音がよくない」との私の説は、「常に二つのトランジスタが動いている(カットオフしない)から音がよい」とするA級信奉者の説と、優劣はつけられません。
結局のところ、音は聞かなければわからない。ならば、聞いてよいほうが、音楽を楽しめるではないですか!変な理屈に惑わされて音を悪くしていたのではつまらない。
(その3に続く)