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Toshiyuki Beppu

ハムノイズとの戦い

更新日:2022年12月14日



 40年以上アンプを作っていますが、いまでも、ときとしてハムノイズとの戦いに苦しめられています。このヘッドホン・ドライバがそうでした。


 ハムノイズとは、出力に現れた商用電源の周波数(およびその倍調波)です。東日本なら50 Hz、西日本なら60 Hzです。「ブーン」と聞こえるあのノイズです。


 電源トランスでは、一次コイルに電流を流して磁界を発生させ、その磁界で二次コイルに起電力(電圧)を発生させます。このとき、一次コイルで発生された磁界の大部分はトランスのコアの中を伝わるのですが、一部はコアから漏れ出ます。

 その漏れ出た磁界が導体を横切ると、そこにも起電力が生じます。電線はいうに及ばず、プリントパターン、トランジスタの足、抵抗器の抵抗体など、電流を流せるところにはすべて起電力が生じます。

 そして導体は、どこかにつながっています。このため、ループができあがります。ループ(回路)があれば、起電力によって電流が流れます。その電流がどこかで電圧として増幅回路に混入すると、「ブーン」となってしまいます。


 この起電力の大きさは、ループを横切る交流磁束に比例します。つまり、磁界の強さとループ面積に比例します。ですからハムノイズ対策では、

  • 磁界(外から侵入するもの/内部で発生するもの)を小さく

  • ループ面積を小さく

します。


 このアンプでは、電源スイッチをオフにすればノイズはまったく聞こえなくなりました。また、電源トランスの向きを変えるとノイズレベルも変わりました。ですから、電源トランスが漏洩源と考えられます。


 そうすると、磁界を小さくするためには、

  1. トランスを遠ざける

  2. 磁束漏れの小さいトランスを使う

  3. シールドケースに入れる

しか手がありません。


 第1の策ですが、磁界の強さはコイルの垂直方向に対しては距離の三乗に反比例します。したがって距離を倍にすれば、ノイズレベルは-18 dBになります。たしかに、遠ざけると「ブーン」は減ります。ですが、タカチUC16-5-22ケースの中では、精一杯離しても減らしきれません。



 第2の策は、効果はあります。BlockのAVBトランスを使った“トランスonケミコン”に交換するとハムノイズは聞こえません。ですけど、FLトランスのほうが、はっきりくっきりとした音がします。しばらく聞いていましたが、寂しく感じるので諦めました。



 第3の策ととなると、スチールのシールドケースを作ってトランス全体を覆うしかありません。とはいうものの、作る手立てがありません。銅箔テープを七重にしたショートリングを試しましたが、まったく減ったようには感じられません。却下。



 ところで、ハムノイズ対策の王道に「1点アース」があります。電源を含む信号系のグランド(GND)とシャーシ(ケース)の接続箇所を1点だけにする方法です。シャーシには電磁界によって電流が誘起されているため、2点で接続すれば、その間の電位差が回路に影響します(「2点でシャーシに接続すると、回路グランドとシャーシとGNDループができて、そこに誘導電流が流れる」との説明《私も以前にそう書いていました》は間違いではないのですが、電位の異なる2点への接続と考えたほうがノイズ対策には有用です)。


 もちろん、このアンプも1点アースとしています。Switchcraft社のヘッドホン・ジャックのGND端子はジャックのボディと接続されています。ここでシャーシと電気的に接するのですから、このポイントを1点アースとしました。

 念のため、シャーシからジャックを外すと、回路GNDとシャーシの間の抵抗は無限大となります。この状態(回路GNDとシャーシを電気的に分離)にして試聴しましたが、「ブーン」のレベルは変わりません。したがって、本機の場合は、シャーシが関与する誘導ではありません。



 影響を受けている箇所は、EVRからヘッドホン・アンプ基板の間でした。EVRのレベル設定をMUTEにしてもmaxにしても「ブーン」の大きさは変わりません。ですから、MUSES 72323 より上流側の誘導ではありません。EVRからヘッドホン・アンプ基板までのラインに触れると、ノイズが大きくなります。したがって、MUSES 72323 の出口以降でノイズが侵入したと特定できます。


 となると、「ループ面積を小さくする」です。


 ここの部分は、EVRからヘッドホン・アンプ基板まではAWG 24のケーブルを“適当”によっただけでした。ここをきっちりと撚りなおすと「ブーン」は小さくなります。でも、使ったケーブルのポリエチレン被覆の厚みでは、限度がありました。

 音が嫌いなのでシールド線は使わないのですが、主義を曲げて試しました。たしかに「ブーン」は減ります。ところが、強烈にピーキーな音がします。MUSES 72323 の送り出し側も、MUSES 03 の受け取り側も、どちらも高インピーダンスです。シールド線によって音はメチャメチャ変わる箇所と思います。ですけど、シールド線で試して良かったものはありません。いまさら探す気になれません。


 最終的に、ツイストペア線を使ってヘッドホンでほぼ聞こえないレベルに抑え込みました。薄い被服で、きっちりと巻いてあることが効果を発揮した理由と思います。ただし、使ったツイストペア線ではやたらと音が固くなったので、あとで BEL-RBT20276 に交換しています。



 このヘッドホン・ドライバには、新開発のシャント・レギュレータを搭載しました。こちらもまた変遷を繰り返したのですが、いろいろと試みた甲斐がありました。いい音です。


 

 記事はこちら


 ハムノイズを防ぐための議論は『ハムノイズと戦わないために その1』に続きます。 

(2022.12.14)



 最後までお読みくださいまして、ありがとうございます。この記事は、購読数が大きいためか、ボットによるコメント荒しを受けています(日本語で書いているのだから、英語でコメントを入れるなよ!)。このため、コメントを不可としています。ご了承ください。
 なお、他の記事へのコメントは大歓迎です。日本語にてお願いします。
(2022.8.5)


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