パソコンの画面でご覧頂くと、巨大なパーツに見えるでしょう。まあ、スマホで見ても、けっこう大きく見えますね。ですが、スタンダードのDIP8と比べると・・・、
小さい! たったの 4.5×5.0×0.8 mm です。この中にチップが二つも入っているのに、シングルのオペアンプです。なんとまあ、マニアックというか、クレージーというか・・・。
メーカーだけではありませんね。このICを使う人も、です。
日清紡マイクロデバイス(旧新日本無線)の MUSES 05 は、MUSES シリーズの最新モデル、FET入力オペアンプです。とんでもないパッケージとされたのは、ひとえに放熱のためでしょう。最大消費電力は、(JEDEC 規格の 76.2×114.3×1.6 mm の)2層基板で940 mW、4層基板では、なんと 3500 mW にも達します。MUSES 03 の 870 mW とくらべると、そのすごさがわかります。基板をヒートシンクとして使ってやろうとのICです。
MUSES 05 は 03 とおなじく、最大出力電流 Io = 250 mA を誇ります。ただし、出力電流を大きくすれば、パッケージ内での電力損失も大きくなります。たとえば、4Ωの負荷を8個の MUSES 05 でドライブすると考えれば(こう考えること自体がクレージー!)、オペアンプ1個あたりの負荷抵抗 RL は、
RL = 32Ω
となります。このとき、ピーク出力電流時のピーク電圧 Vo は、
Vo = 32×0.25 = 8 V
ですから、オペアンプ1個からの負荷への供給電力 PL は、
PL = (1/2) Io×Vo = 1 W
です。一方、電源電圧 Vcc = ±18 V とすると、電源からオペアンプへの供給電力 P は、
P = 2 Vcc×Vo /πRL ≒ 2.86 W
にも及びます。ですから、オペアンプでの損失 Pcir は、
Pcir = P - PL = 1.86 W
となります。
これだけの熱量を放出できなければ、IC は焼け死にます。もちろん、周囲温度25℃にて870 mW のパッケージでは不可能です(ずっと小さな消費電力状態でしたが、私は、MUSES 03 を3個も煙を噴かせました)。ところが、3500 mW の MUSES 05 なら、可能にできるかもしれません。
さて、MUSES 05 の裏面には2カ所の放熱パッドが設けられています。このパッドは、電気的には「マイナス電源 V- に接続またはフローティング状態」が指定で、サウンド的には「フローティング状態」が推奨です。ただしこのとき、それぞれの放熱パッドを電気的に接触させては NG となっています。
ICのチップは、回路全体の基部となるp形のサブストレートの上にn層、さらにその上にp層、と重ねて作られます。このp形とn形の接合部には、キャリアの存在しない空乏層が形成されます。p形のサブストレートをマイナスの電源電位(ーVcc)に接続し、n層にはサブストレートよりも電位が高くなるように回路を構成します。そうすると、接合部は逆電圧状態となります。つまり、空乏層が絶縁層として働きます。このようにして、n層にトランジスタや抵抗を構成します。(ちなみに、過大な電圧を加えれば、接合部がブレークダウンして破壊されます。あるいは、逆電圧を加えれば、接合部は「順方向」となって電流が流れて破壊されます)。
推測ですが、電圧増幅段と出力段のチップが、絶縁されないで放熱パッドに載せられているのでしょう(V- とパッドの間をDVMで測ると3 MΩくらいですが、半導体ですから印加電圧によって値は変わると思われます)。このため、マイナス電源 V- を接続またはフローティング状態と指定されているのでしょう。
さて、この放熱パッドですが、放熱のためには、パターンとハンダ付けしたいところです。ところが、ICの裏面ですからハンダこてが届きません。A月電子には MUSES 05 用のDIP化基板があり、パッドの下に銅箔が接するようになっていますが、これもハンダ付けは不可能です。
また、放熱のためには基板面積が必要です。JEDEC 規格の 76.2×114.3 mm は、かなりのサイズです。ICソケットと同じ面積の基板では、ほとんどヒートシンクとしての働きは望めないでしょう。
ですので、基板にMUSES 05 を直接ハンダ付けと考えます。それに、吹けば飛ぶような MUSES 05 です。ガッチリと支えなければ真価を発揮してくれないでしょう。ですから、基板は 80×50 mm の真鍮基板とします。ただし、真鍮基板では裏面のパターンはエポキシ樹脂で覆われます。実質的に部品面側だけが放熱に働きます。
そこで、MUSES 05 の下を含む部品面側を、できる限りベタGNDとして放熱面積を稼ぎます。放熱パッドとはソルダーレジストで絶縁します。ソルダーレジストは20μm 程度の厚みですから、熱抵抗はそんなに大きくはないと考えます。
とはいえ、真鍮基板には IC を4個も載せます。基板は、おおよそ JEDEC 規格の 1/16 の面積です。ヒートシンクとしては不足でしょう。かといって、MUSES 03 に載せた“ヒートシンクとして働く”デッドマスは、MUSES 05 のサイズでは無理です。
どうしたものかと、二ヶ月考えました。なんとかできそうな仕掛けを思いついたので基板を作りましたが、試せるのは完成してからです。うまく働いてくれるとは思うのですが・・・。
その基板はこちら。
MUSES 05 をハンダ付けしたところがこちら。IC の端子と接続する基板側のPADを長くしています。これによって、端子の並びと直角方向の、IC の位置決めを楽にします。また、ブリッジができたとしてもハンダこてを引けば、サーっとブリッジを解消できます。秘伝のノウハウ(笑)。
寒いので、基板をオイルヒーターの上で予熱してからハンダ付けです。とにかくパターンが小さいですから、老眼鏡にルーペも使わなければハンダ付けできません、私には。4個を取り付けるのに40分もかかってしまいました。かなりやっかいです。
さて、組み立てを進めるぞ!
と言いたいのですが、ここで確認作業が必要となります。面倒です・・・。
(次回に続く)