(その1はこちら)
MUSES 05 はジャンクション FET 入力オペアンプです。J-FET はベース電流を流さなければ動作できないバイポーラトランジスタ(BJT)と異なり、ゲート容量の充放電にしかゲート電流を要しません。
なお、一部に流布している「ゲート電流が流れないから音が良い」との説は“まがいもの”ですね。どうして一つのパラメータを取り上げて、音が良いとか悪いとか決めつけられるのでしょうねぇ。根拠がない。まあ、J-FET入力でもBJT入力でも、音の良いオペアンプはめったにない。ゲート電流云々の話ではないですね。
ところで、MUSES 05 は希有な例外のひとつです。いままでに聞いたベストのオペアンプ MUSES 03 を超えるサウンドです。ただし、試聴したものは、DIP 変換基板に取り付けた状態でした。その変換基板もA月電子のモノではなく、いつも基板を設計してくれている S君の特製品!なのですが、これだけ小さな IC です。実装される基板によって音は相当に変わると考えます。ですから、現在進行形の SKHP-05X の完成までは、コメントを差し控えます。
取り付けられているピンをご覧ください!
ここに安物を使うと、せっかくのMUSES 05の音がダメにされます
さて、本題です。
入力電流(オペアンプの電気的特性項目は「入力バイアス電流」)の小さな J-FET入力オペアンプは、入力オフセット電圧が大きい傾向があります。入力オフセット電圧は、オペアンプ内の素子のバラツキに起因する等価的な入力電圧です。出力電圧を 0 V にするために非反転入力端子に加える電圧の絶対値として定義されます。つまりは、入力電圧は 0 V であっても、出力にはオフセット電圧が表れます。その大きさは、入力オフセット電圧の非反転アンプゲイン (1+ Rf / Ri) 倍となります。
データシート上は MUSES 05 も MUSES 03 も、入力オフセット電圧の標準値は 1 mV です。これくらいなら、まったく問題ありません。ところが最大値は、MUSES 03 は恐ろしいことに空欄。メーカーとして何 mV 以下であるかを保証してくれない。言い換えれば、何 mV でもユーザーは文句を言えない。
MUSES 05 の最大値は、なんと 10 mV です。ということは、ゲイン +26 dB(20 倍)のパワーアンプに使ったなら、200 mV ものオフセット電圧が出力に表れます。これは大き過ぎ。パワーアンプであっても±50 mV 以下には押さえたい。
では、ヘッドホンドライバなら何 mV までとすべきか。数字に根拠はありませんが、最大振幅はせいぜい1~2 V なのですから、感覚的にはその 1/100 くらいには押さえたい。今回は EVR-323X ヘッドホンドライバと同じくゲイン3 倍(+9.5dB)で計画しています。出力で±10 mV 以下とするなら、その 1/3 ですから、入力オフセット電圧は 3 mV 以下です。
さて、MUSES 03 であれば、入力オフセット電圧が大きかったとしても、ソケットで差し替えできます。ところが、MUSES 05 は音の点からも放熱の点からも、変換基板で DIP ソケットに差し替える手は考えません。基板にハンダ付けされた個体が大きなオフセットを示したなら、交換します。
MUSES 05 をハンダ付けした SKHP-05X 基板に、オフセットの測定のために抵抗を仮付けしました。マックエイトの配線用端子のホールにハンダを入れてしまうと、あとでホンモノのパーツが入りません。ですから、端子の外側に金属皮膜抵抗を仮付けして、ゲインを11倍にして測定しました。ところが、測定を終えてから気づいたのですが、ホンモノの抵抗を使えばよかった。余計な手間でした。いつもながら、やってからでないと気づかない・・・。
比較のために2枚の基板を作っていますが、MUSES 05 の入力オフセット電圧は、
No.1, L-ch: +1.43 mV, +1.23 mV
R-ch: +1.01 mV, +3.62 mV
No.2, L-ch: +2.43 mV, +3.85 mV
R-ch: +1.71 mV, +2.17 mV
となり、2個がオーバーでした。
SKHP-05X 基板では、それぞれのチャネルで2回路の出力を合成しますので、オフセット電圧は平均値のゲイン倍となって出力に表れます。No.1, R-ch は +1.01 mV と +3.62 mV で平均は +2.315 mV ですから 3 mV ラインは下回っています。ですけど、気分的によろしくない。個体として 3 mV を超えた2個を交換しました。
MUSES 05 のフラットパッケージを上手く外せるか自信はありませんでしたが、ホットプレートを IC の保存温度 (-50~+150℃) 内の130℃に設定して基板を温めて、太めのコテ先を使って、1個目は少々手こずりましたが、2個目は簡単に取り外しました。
(再現写真。片側ずつ温めて取り外した)
交換後の入力オフセット電圧は、
No.1, L-ch: +1.43 mV, +1.23 mV
R-ch: +1.01 mV, -0.82 mV
No.2, L-ch: +2.43 mV, -1.85 mV
R-ch: +1.71 mV, +2.17 mV
となりました。偶然ですが、交換前の8個はすべてプラスのオフセットでしたが、交換した2個はともにマイナスでした。
余談ですが、オフセットテストの際、のべ96本の IC ピンのうち 1 本がハンダ付け不良と判明。あの小ささは、やっかいです。検査は必須です。
配線用端子をすべて取り付けたところがこちら。組み立てを進めます。
(次回に続く)