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Toshiyuki Beppu

LPもCDもファイルのダウンロードも、すべて音楽を伝える媒体である

更新日:2022年9月28日

- LPさん、ごめんなさい -


ラジオ技術誌2022年2月号アンケート

「LPとどう向き合っている?」に寄せて



 だいぶ減らしたのですが、それでもLPは600枚くらいあります。しかし、ここ10年くらいターンテーブルを回した覚えがありません。はるか以前、「デジタル録音なのに、なぜ、CDはLPよりも音が良くないのか」と、デジタル再生に取り組みました。どう考えても、機械的にカッティングして、スタンパに転写してから高分子材料をプレスし、プレスされた円盤の物理変位をピックアップするプロセスを除いたほうが、信号の劣化を少なくできるはずです。それなのに、LPに比べてCDの音が悪い。その理由は「商品としてのCDプレーヤがレコード会社のD/Aに劣っている」としか考えられませんでした。

 それから数年間、いろいろと試みた甲斐あって、CDのほうが良い音を聞かせてくれるようになりました。そして、それからはLPを回すことが減りました。


 前世紀の末頃はまだ、新譜はLPとCDの両方が発売されていました。どちらを買うか。安くて音も良い、なら答は決まっています。ありがたいことに、CDにはスクラッチノイズがありません。そりによるワウフラもありません。極めつけに、機械系の共振音をなくしてくれました。

 カートリッジとトーンアームとターンテーブル。遍歴というほどではありませんが、いくつかを使ってきました。カートリッジの終着駅は、大春さんのものと光悦でした。どちらも音溝のディテールを正確に、繊細に拾い上げて聞かせてくれます。アームは東京サウンドのオイルダンプ。ガタがないことと機械的剛性がアームの要だと考えます。そしてターンテーブルは、マイクロの糸ドライブ。とにかく、質量が重要と感じます。もちろん、慣性モーメントが大きければ大きいほど回転が安定します。それと同時に、わずかなカートリッジの作用ですが、それを受け止めるデッドマスとしての質量が必要です。軽いターンテーブルでは、音の芯がフニャっとします。10 kg 近くあるターンテーブルに、さらに銅製のシートを重ねています。

 カートリッジの出力は、CR-NF型のトランスインピーダンス・アンプで受けました。左右、プラス・マイナス、増幅各段に独立電源トランスとチョークを用いたイコライザです。我ながら、よくもまあ、あんなアンプを作ったものだと呆れます。それだけ入れこみました。ところが、TDA1541の4パラは、さらに掘り下げたディテールまで聞かせてくれました。

 そしてCDを聞いているうちに、機械系共振が耳につくようになりました。ガラス窓に色をつけたかのように、機械系共振は録音されている音すべてにキャラクタを重ねます。再生系だけでなく、カッティングマシンのキャラクタもあるように思います。なぜなら、同じ会社の複数のレコードに類似した色づけを感じるからです。

 もちろん、録音会場にも音のキャラクタはあります。サントリーホールと東京文化会館で響きは異なります。ですけど機械的共振は、アコースティックな残響音とは異なる“色”を付け加えます。機械系共振音のないことが、デジタル録音・CD再生のもっとも良いところだと考えます。


 嬉しいことに、古いアナログ録音がCDとなって再発売されてきます。それも、かつてのLPよりもずっと安い価格です。その上に、たいていは音もよくなっています。LPとちがって日本盤と輸入盤の音の差も判りません。いま思い出したのですが、かなりのLPを日本盤からフランス盤に買い換えました。(日本盤とドイツ盤、イギリス盤はそれほど違うとは感じませんでした)。かつて秋葉原にあった石丸電気で、あの頃で一枚3,300円くらいしました。日本盤は2,500円くらいなのに。駿河台や神保町あたりの輸入盤屋はもうちょっと高かったです。財布にキツかった。

 それから、海賊盤がマシな音で手に入るようになったのもCDのお陰、と思っていたらこの頃、かつての海賊盤が放送局テープからの“正規盤”に姿を変えてゴロゴロとリリースされてきます。もちろん、海賊盤CDよりも音は良い。カナダやイタリアの海賊盤LPの、ノイズに埋もれた演奏を聞いていた頃からすれば、夢のようです。

 欲をいえば、もう少し録音時間を長くしといて欲しかったですね。当時のS社の社長が「一枚で『第九(ベートーヴェン交響曲第9番)』を収録できるように」とPhilipsのCD規格をサイズアップさせたのだそうですが、なぜ彼は「『復活(マーラー交響曲第2番)』を一枚に」と言ってくれなかったのでしょう(彼がバリトン歌手だったからでしょう。復活には出番がありません)。結局のところLPもCDも、中身ではなく、枚数で値段が決まっています。


 ここ10年くらいでしょうか、LPでは新譜が出てこなくなりました。あったとしても僅かで、CDよりもはるかに高価です。LPにせよCDにせよ、円盤が欲しくて集めているのではありません。円盤の中に閉じ込められた演奏を聞きたくて買っているのです。つまりは、LPもCDも音楽を伝える媒体であって、その中に記録された演奏を期待して買うのです。演奏が素晴らしいものであれば何回、何十回、何百回と聞きます。でも、つまらなければ一回でサヨナラ。そうそう、何百回聞いても劣化しないのもCDのありがたいところですね。棚に並ぶ何枚かは、擦りきれて買い直したLPです。

 そう考えれば、ファイルのダウンロードも同じです。LPであろうとCDであろうとダウンロードファイルであろうと、媒体が違うだけです。新譜も旧譜も手に入る媒体でなければ意味がありません。私は演奏を聞きたいのですから。いくら音が良くても、つまらない演奏では楽しくありません。生演奏でも同じです。「はやく帰ってCDを聞きたい」と思うこともあります。


 ところで私のデジタル再生系は、ここ四半世紀の間、まったく改良されていません。SACDにも対応できていないです。浦島太郎ですね。ですので、一昨年、世の中の進歩を聞こうとM社の高級ネットワークプレーヤを買いました。

 しかし、「回転系もないのに、なぜ、ダウンロードファイルはCDよりも音が良くないのか」と嘆かせる音です。断言しますが、あのプレーヤよりはLPを再生したほうが良い音でしょう。「なぜ、CDはLPよりも音が良くないのか」と考えたときの記憶がよみがえってきました。


 自分で作るしか、まともな音で音楽を再生する手はないのでしょう。その点だけは、前世紀の頃からまったく変わっていないようです。


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