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Toshiyuki Beppu

電源トランスをオンオフする

更新日:1月2日



 年寄りの昔話を。


 1984年頃です。バスレフ箱に入れた38 cmウーファの上に、カットオフ400 Hzくらいのウッドホーンを載せた2ウェイで、生涯で最悪の音を再生していました。『現代ステレオスピーカ』なるラジオ技術の別冊の、何年だったかの表紙を飾っていた某氏の記事に感化されて取り組んだシステムでしたが、最悪と言うよりも悲惨な音でした。いま思えば。

 その絶望的なスピーカをA級30 Wのアンプでドライブしていました。これもよくはなかったですが、スピーカに比べれば、ずっとまとも。


 ところで、その頃住んでいたアパートでは、なぜだか、平日の昼間はやたらと音が悪くなる。スピーカが酷いのに輪をかけて、カサカサとした潤いのないつまらない音になります。それが、夜になるとすっきりとして、女性ヴォーカルのしなやかさが感じられます(といっても、あのスピーカでの相対感です)。

 ところが、日曜は悪くならないのです。日曜なら、日中も、夜間と同じ感じで鳴ってくれます。埼玉の私鉄沿線の町でした。周囲は家やアパートで高い建物もなく、近くに大きな通りもなく、日中の騒音はそれほど大きはありません。その他にも環境要因は感じられません。なぜだか、理由はわかりませんでした。


 そのアパートを引っ越してからのことです。

 バイト先で作ったパソコンシステムがトラブって、会社のクルマで納入先へと向かいました。するとクルマは、なんと、以前のアパートの通りを挟んだところの工場へ。なんという偶然!

 基板交換の作業を終えて会社の人と話をしたのですが、何を作っていたのかは忘れました。ですけど、数100 kW の電気炉をサイリスタ制御しているとのことでした。


 サイリスタとは、大電流をオンオフできる半導体素子です。アノードAnode、カソードCathode、ゲートGateの三つの端子があり、内部は、PNPNと接合された構造です。PNPとNPNの二つのトランジスタが組み合わされた構造と考えることもできます。アノードをプラス、カソードをマイナスとして電圧を印加しても、真ん中のNPのジャンクションが逆方向(上と下のPNジャンクションは順方向)ですから、電流は流れません。


https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/c5/Thyristor.svg/1920px-Thyristor.svg.png



 ここで、ゲート・カソード間に正電圧を印加します。これは、NPNトランジスタのベース・エミッタ間にバイアス電圧を印加することに相当します。PNジャンクションは順方向ですから、ゲート(ベース)から電流はカソード(エミッタ)に向かって流れます。

 一方、PNPトランジスタのエミッタ・ベース間は順方向ですから、NPNトランジスタのコレクタには、PNPトランジスタのベースを通してアノード電圧が印加されています。したがって、NPNトランジスタのコレクタからエミッタに電流が流れます。つまりは、サイリスタのアノードからカソードに電流が流れます(ターンオン)。


 PNPトランジスタにベース電流が流れるとき、PNPトランジスタもオンになるのですから、PNPトランジスタのコレクタへもエミッタ(アノード)からの電流が流れます。こちらは、NPNトランジスタのベース電流として働きます。このため、ゲート電流をなくしてもサイリスタはオン状態が続いて、アノードからカソードへ電流は流れ続けます。

 交流であれば、周期的に電源の極性が反転しますから0になったときに、アノード・カソード間はオフになります。


 交流を全波整流してアノード・カソード間に印加して、ゲートにターンオンする角度(点弧角)を入力すると、図のようにサイン波の幅を変化させるスイッチング制御ができます。



 ところで、大きな電流をスイッチングさせると、上流側、すなわち商用電源側にも影響を及ぼします。サイリスタがオンしている間に電流を流すのですから、その間でだけ一次電圧が下がります。つまり、電源の電圧(電流)波形がひずみます。


 工場の人は、電流波形をひずませるために、東京電力に割り増しの電気代を払っていると語っていました。「もしや!」と尋ねると、日曜は休み(週休1日の時代です)、夜間は操業していない、とのことでした。

 これが平日の昼間に音が悪くなる理由だったのか!と合点がいきました。直接証拠はありませんが、そうにちがいない、と決めつけています。これだけ近くで電源波形をひずませていたのですから。


 この体験があって、サイリスタを毛嫌いしていました。ですけど、ゲートに信号を入れっぱなしにするなら、電源の極性が反転してから内部の二つのPNジャンクションを乗り越えるだけの電圧になったら、トライアックはオンします。ほとんど電源波形はひずまないはずです。それなら、音も悪くならないかもしれません。


 そこで、秋月電子のソリッドステートリレーキットで試しました。トライアック(双方向サイリスタ)をフォト・トライアックでドライブする使いやすい基板です。電気的に絶縁されていますので、マイコンから簡単に AC 100 V をオンオフできます。



 比較相手は、こちらのリレーです。リレーについては、説明の必要はないでしょう。電磁石の力で機械的に接点をオン/オフします。機械式接点という点では、スイッチと同じですね。ちなみに、このIDECのスイッチとOMRONのリレー、以前に比べたことがありますが、音の違いは感じられませんでした。



 リレーの難点は、操作コイルが大食いであることです。写真のOMRON G2R-2は、530 mWも食います。PICマイコンからでは直接ドライブできません。まあ、これは、トランジスタを1個通せば事足ります。ここでは、デジタル電源のトランスの2次電圧を下げたくなかったので、AC 100 V の操作コイルを、フォトリレーでドライブしました。タイトル写真で、リレーの前に白く写っているパーツです。


 さて、比較結果は記すまでもないでしょう(採用したほうがタイトル写真になっているのですから)。機械式接点の圧勝です。トライアックでは、ヴァイオリンの柔らかな音がガサガサにされるというか、潤いのない荒れた音になります。却下。


 これで、音質劣化なく、リモコンでオン/オフができるようになりました。


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