このところずっと、バッテリ駆動パワーアンプを鳴らしています。単に鳴らしているのではなく、バッテリーの最低電圧からの充電を確認するために放電させているのです。といっても日に1~2時間しか鳴らせていないので、まだまだ時間がかかりそうです。
このパワーアンプ、信号系はパラレル・ワールド6と同じ構成です。ですので、振幅が小さいうちは安定に動作しますが、振幅を大きくすると寄生発振が現れるところもそっくりです(同じ回路だから当然か)。
図は 4Ω 負荷で 5 V の振幅です。パワーに換算すれば 3 W。良好なサイン波です。ちなみに拙宅の音量では、ピークが 5 V に達することはありませんので、寄生発振を心配しないで聞いていられます。
だいたい、振幅が 8 V を超えたくらいから寄生発振は現れます。こちらは振幅 10 V です。ピークに振動が観測されます。
オペアンプは発振させないように、位相が回転する高周波領域でのオープンループゲインを小さく作られています。ですから、ふつうに(パラレルにしないで)使うのであれば、発振の心配はありません。ところがふつうでなく(パラレルにして)使うと、オペアンプ特性のバラツキのために生じる位相回転のズレが、他のオペアンプに回り込んで不安定動作となるのでしょう。
発振を止めるには、オペアンプ相互の干渉を減らすか、オープンループゲインを小さくするか、をします。干渉を減らすためには、入力あるいは出力に抵抗を入れる手があります。ところが、この直列抵抗は音に大きく影響します。コスト的にも基板面積的にも入力にNS-2B を追加したくはありません。また、出力の抵抗は最大出力を減らしますので、これを大きくしたくない。
であれば、ゲインを下げる手です。CRを直列(ゾベルフィルタ)にして出力に接続します。ゾベルフィルタは、高周波帯域での負荷インピーダンスを小さくしてアンプのゲインを下げます。回路図のR2とC2です。部品定数はパラレル・ワールド6のときに実験的に決定しましたが、同じ回路だから同じ値でよいでしょう。ここでは、8.2 Ωと 0.01 μF を使いました。
基板にハンダ付けするよりも楽なので、CRは圧着端子を取り付けてスピーカターミナルにネジ止めしています。輸送中の振動で動くと嫌なので、セメダインのスーパーXでリアサブパネルに軽く接着しています。
ちなみに、CRもアンプからの出力ラインもニチフの圧着端子を使って接続しています。SP-10Ⅱに付属の金メッキ端子は、磁石にくっつくのが嫌で使いません。ということにしておきますが、どちらを使っても音は変わりません。銅の端子だと圧着ペンチで潰すのがたいへんなのでアルミ端子を使っている、というのが本当のところです。
ここで、圧着端子を使わないでスピーカターミナルに直接ハンダ付けすれば、若干ですが音の透明感が増します。ですけど、M5のナットで両側から圧着端子を締め付けた状態との音の差は僅かです。電気的につなぐことよりも、機械的にガッチリと固定することが要点ですね。まだまだ取り外して調整が必要かもしれませんので、ナット止めとします。
ついでに、ここをハンダ付けにするよりは、真鍮のサブパネルを使うほうが効果大です。音像のクッキリ感が違います。
ゾベルフィルタ追加時の証拠写真です。マイナス側が -10 V でクリップしていますが、寄生発振は観測されません。ピークで±10 V ですから 7.1 Vrms。4Ω負荷で 12 W の出力です。
ところで、寄生発振以外にも問題がありました。それも、モノラルで鳴らすときには現れないのに、ステレオにすると片チャネルだけ発振するという不可解な状況でした。これまでに数十台はアンプを作っていますが、こんな経験はありません。しかもこの発振は、どちらのチャネルで生じるかわからない。スピーカから“ブーッ”とバズ音が聞こえるのですが、アンプに手を近づけると音は止みます。波形を観測するためにオシロスコープをつなぐと、それもGNDクリップをつなぐだけで、音は止まります。発振していないほうのスピーカケーブルを外すと(電源はONのまま。ピンケーブルはつながっている)、これまた静まります。ワンポイントアースの位置を変えたり、アースそのものを外したりしても、音は消えません。ところが、2台のシャーシをクリップでつなぐとピタリと止まります。
電源トランスを載せていないので、シャーシの電位が完全にフローティングとなっていて、ごく僅かな誘導が発振を誘発していると考えられますが(手を近づけただけで発振しなくなるのですから)、それなら、なぜ、2台のシャーシをクリップでつなぐと安定するのかを説明できません。
まあ、クリップさえつなげば不安定にはなりません。ですから、つないで鳴らしていました。ゾベルフィルタで解決するかな、と期待を抱いていたのですが、残念ながらクリップは外せません。
それでも、せっかくのモノラルアンプに余計な線をつなぐのは気分がよくない。そこで、入力抵抗にもゾベルフィルタを入れました。入力抵抗 RIN は、たまたま海神無線で NS-10 の 10 kΩが在庫切れで 9.1 kΩにしました。そこに、100Ωと 0.01μF の直列をパラにします。回路図のR1とC1です。入力抵抗の高周波領域でのインピーダンスを下げて、侵入する成分を減らす作戦です。
作戦は成功し、クリップなしで安定に動作しています。
以上の出力と入力へのフィルタですが、どちらも追加による音の変化は感じられません。発振を止めましたので、これで心置きなく試聴感を記せます。
とにかく、ソプラノの声の出る瞬間が美しい。唇から放たれる空気の振動が、そのままに伝わってくるかのようです。声が消えゆく響きはもちろん伸びやかで柔らかですが、それを感じるよりも前に、何物にも邪魔されずに伝わってくる声にハッとさせられます。
人の声が良く鳴るときは、他の楽器すべてが良くなりますね。打楽器や鍵盤楽器はいうに及ばず、弦楽器の、弓が触れた瞬間の音がビーンと伝わってきます。それほどにクリアです。ライブの拍手の響きのリアルさもいい。なにも考えないで、演奏会の録音を楽しめています。
真鍮基板とすると(ガラスエポキシ基板と比べ)、音の実在感がアップします。音像をクッキリとさせるだけでなく、あるところから埋もれてなくなっていた残響音が、さらに消えないようになるというか、音のディテールがより聞こえるような、クリアさを聞かせてくれます。バッテリー電源もまた、静かさがアップするというか、ディテールを解き明かすかのように聞かせてくれます。その組み合わせの効果でしょう。リアリティに優れます。
パラレル・ワールド6と同じ回路であり、アンプの電気系はほぼ同じパーツですから、同じトーンを持っているはずです。ですけど6に比べ(6は友人宅から帰ってきませんので記憶との比較ですが)、透明感に優れるというか、より静かに、より深くまで、密度の高い音を聞かせていると感じます。常用のパラレル・ワールド4よりも演奏会場を感じさせてくれます。聴き心地のよいアンプです。
早く完成させたいところです。