『ユニウェーブスピーカ』第1部では、高橋和正さんがホーン・システムからユニウェーブまでの変遷を語られています。高橋さんのかつての“ミディゴン”システムは、それ以前のラジオ技術誌で拝見していました。マルチ・チャネル・アンプでドライブされた4ウェイ・ホーン・システムです。私などはその記事を見て「よい音がするのだろうなあ~」とバイトに励んでいました。
そのホーンからの変遷の始まりが、こちらの記事に記されています。
この1988年7月号の記事を、私は何度も読み返しました。それより以前、38 cmウーファに1インチドライバーを使っていた頃は、私も素直でしたので、どこかの雑誌に書かれているとおり「ネットワークの遮断特性は急峻であるほど良い」と信じていました。そして、-12 dB/oct. や-18 dB/oct.のネットワークでトウイータの極性を変えたり、定数をいじったり、レベルを変えたりはしては、「自分の腕が未熟だから酷い音しかしないのだ」と落ち込んでいました。当時の私には“常識”を疑うことなどできません。-6 dB/oct.を試したことはありませんでした。
その常識を疑われて-6 dB/oct.でのクロスオーバーを試み、さらに、ご自身の聴感でホーン・システムと決別された記事には、衝撃を受けました。
ちょうど記事を読んだ頃に私は、「デジタル録音なのに、なぜCDは(アナログに変換された)黒い円盤よりも音がよくないのか」と考えてD/Aに挑戦していました。1989年2~4月号に発表したそのD/Aの記事(Part 1), (Part 2), (Part 3)が、私のラジオ技術デビュー作です。そして、D/Aやデジタル・フィルタ、アナログ・フィルタと試しているうちに、「“常識”など、音を聞かない誰かが言い出したことばかりだ」と考えるようになっていました。
一連のD/A記事を書いた後ですから、89年の末か、90年の初頭です。初めて聞かせていただいた高橋さんのシステムは、88年の記事よりも改良されていました。その“リニアフェイズ”システムの音には驚きました。私を苦しめていた“マルチウエイの音”が微塵もありません。
ところがリニアフェイズには、未だ“ミディゴン”のホーンの開口部にコーン型のミッドローとミッドハイのユニット,パイオニアのリボン・トウイータが重ねられていました。そして、高橋さんのすごいのは、その時点でも“ミディゴン”を鳴らせるようにされていたことです。私など、悪いと思ったら、その日のうちに分解します(笑)。
でも、笑いながら曰く「鳴らせるようにしていたのではなく、惜別の情にたえず、そのままにされていた」と。“ミディゴン”の音も聞かせてくださいました。「いや~、こんな音で良いと思っていたんだよね~」と自嘲されていましたが、失礼ながら、まったく同感でした。
90年11月の記事には、“ミディゴン”が姿を消したリスニングルームが写っています。高橋さんが記されているように、単発サイン波応答(第1図)を見せられたショックは相当なものであったと思います。それ以上に、ホーンを置いているだけで強烈な“リバーブひずみ”が観測されたこと(第8図)が、決断につながったのでしょうか。その次にお伺いしたとき、玄関の脇にホーンの残骸が積み上げられていました。大春さんがニヤニヤしながら一言。「とうとう離婚されましたね」。
余談です。
記事の26ページ右段に「4ウェイのシステムでは可聴帯域すべてでオバケの出ることになる。もっとも、これはネットワークに 6 dB/oct 型を使った場合の話で、一般にはこれを嫌ってもっと急峻なネットワーク、ないしはチャネル・デバイダを使うわけである」とあります。が、これは誤解でした。もっと急峻なネットワークを使うと、もっと醜いオバケになります。こちらの記事に記したとおりです。