引っ越しをして、機器の配置が変わり、ピンケーブルを作りなおしました。
「一般に」というか「常識的」には、機器間の接続にはシールド線を使います。いわゆる「ピンケーブル」はもちろんシールド線です。シールド線を使わないとノイズ、とりわけ商用電源からの“ブーン”というハムノイズに悩まされる、とされています。
ところが、ピンケーブルは音を変えます。巷には、数百円の廉価品から万を超える高価格品まで何十種類ものケーブルが売られています。これまでに何種類かは試しましたが、たしかに、音は変わります。ただ、厄介なことに値段と評価は比例しません。数千円もするのに 1/10 のお値段のものよりヘンな音のケーブルも体験しました。
シールド線に疑問を抱いたのは、アンプの内部配線からでした。40年以上前のことです。製作記事に書かれていたとおりに RCA ジャックと基板、基板と基板の間の接続にシールド線を用いました。そのときに「基板上のパターンはシールドされていないけど、ここでハムノイズが誘導されないだろうか」とは思ったのですが、そのまま忘れていました。シールドされていない基板をシールド線でつないだプリアンプ(黒い円盤を再生するための RIAA イコライザ)からは、ハムノイズを感じることはありませんでした。
そのうちに、「シールド線によって音が変わる」ことを知りました。M社がよいとか、いや、B社だとか、あるいはアマ無線で使う同軸がよいとか。
よいと聞くと試したくなります。で、たしかに変わる、というよりも、激変します。抵抗やキャパシタを交換するよりも音の変化は大きい。それも、かなり特徴的なキャラクタを聞かせるものが少なくない。
いろいろと比較しているうちに思い出しました。「基板上のパターンはシールドされていない」のです。それなら、RCAジャックと基板の間のシールドも不要かもしれません。
試すと、ハムノイズは聞こえません。それよりも、シールド線には特有のピーク感というか、高域の硬さ、あるいは色づけがあることがわかります。単線には「シールド線サウンド」はありません。
それからは、アンプの配線にシールド線を使わなくなりました。
EVR-323XX アンプ組立中の光景。シールド線はどこにも使っていない
では、なぜ、シールド線が音を変えるのか。
図にシールド線の構造を示します。シールド線は内部導体(芯線)を信号線、外部導体(シールド)をグランド線として使います。信号線とグランド線の間には絶縁体が入ります。ところが絶縁体は誘電体として働きます。つまり、シールド線を使うとアンプ入力と並列にキャパシタを挿入することになります。
この容量、たったの数百 pF です。電気的には周波数特性を狭めるはずですが、数百 kHz 以上の領域です。もともと位相補償されている帯域ですから、特性的には問題とならないでしょう。
それよりも、容量の“質”が問題です。抵抗やキャパシタを交換すると音は変わります。抵抗値やキャパシタンスといった明示される電気特性以外に、なんらかの音に影響を与える要素を、それぞれのパーツは持っています。もちろん、シールド線も持っています。しかも、容量はアンプ入力に並列に入ります。
たとえば、この回路に 4 本の抵抗があります。どれを交換しても、音は変わります。では、どの抵抗がもっとも大きく音に影響するでしょうか。
もっとも影響の大きいのは、入力抵抗 RIN です。ですから、私が抵抗を試聴するときには RIN を差し替えます。シールド線の容量 Ccable は、この RIN に並列に入ります。
まあ、良質のキャパシタ、たとえばディップマイカを、ここに並列にしても悪影響は聞こえません。でも、質の悪いキャパシタでは、ヘンな音をつけ加えます。
シールド線の絶縁体は、フレキシブルにするために柔らかく作られています。内外の導体に電流を流せば、電界が生じて導体に力が加わります。ということは、絶縁体が伸縮して、導体間の距離を変えます。そうなれば、キャパシタンスも変化します。
そんなものが質のよいキャパシタとして振る舞うでしょうか?
もちろん、Ccable は並行2芯線でも2本の単線でも存在します。ただ、シールド線に比べれば、その容量は 1/10000 以下です。単線も交換すれば音は変わります。ですが、容量が小さいため、シールド線ほどにはコロコロと音を変えないのだと考えます。
ついでに言えば、絶縁体にはキャラクタを感じます。一般的な耐熱ビニル(PVC)電線は、概してボケッとした音になります。それよりは ポリエチレンのほうがハッキリとした音で好みです。1.5D-QEV の芯線だけを抜き出して使ったこともありますが、シールド外皮を剥くのが面倒な上に、色が一つしかないので配線がやりにくい。また、絶縁体の厚みが大きいほど、キャラクタが強い傾向を感じます。ですので、絶縁体の薄い UL 3265 を使っていました。
ところで、試作中の基板はケースに入れないで、もちろんシールド線は使わないで、試聴します。もちろん、その状態でもハムノイズに汚染されることは(電源トランスを極近くに置かない限り)ありません。
それなら、「アンプとアンプの間をシールド線とする必要はない」と考えられます。
アンプ内は、せいぜい 10 cm か 20 cm をつなぐだけですが、アンプとアンプの間は短くて1 m、長ければ 5 m ものピンケーブルが入ります。ということは、その影響はアンプの中よりもずっと大きいハズです。
そう考えて、0.5 sq のスピーカケーブルでピンケーブルを作りました。PVC ですが、その時、手元にあった並行2芯線はこれだけでした。それでも、PVC 並行2芯ピンケーブルは、6N とか 7N とかの高純度 Cu をうたったシールド線よりも、素直なバランス感を聞かせてくれました。
さて、いまは配線にベルデンのロボットケーブル BEL-RBT20276 から AWG 24 の芯線を取り出して使っています。芯線は、直径 0.5 mm の導体に低摩擦性の極薄 ETFE を被せた構造で、その外径は 0.8 mm しかありません。絶縁体は極薄ですので定格電圧は AC 30 V しかありませんが、この薄さが音のキャラクタの少なさにつながっていると思います。
ただし、RBT20276 もポリ塩化ビニール (PVC) のシースを被せたオリジナル状態では、鈍いボケッとした音になります。耐熱ビニル電線と同じような音色と感じます。
ピンケーブルを作るには、芯線が2対(4本)の BEL-RBT20276 2PX24AWG がよいでしょう。白黒と赤緑の二組のツイストペアケーブルが入っています。
まず、ケーブルを必要な長さにカットします。
次に、ケーブルの両端を 3 cm くらいずつ剥きます。シースの内側には、滑りをよくするために紙が巻き付けられています。どちらの端が巻かれた紙をほどきやすいか、を確認します。写真では右側のほうがほどきやすい。
シースを剥くには、ワイヤーストリッパの AWG 10 穴がちょうどよいサイズです。シースは、紙をほどきにくいほう(上図では左のほう)に剥いていきます。一度に 15 cm くらいずつ、ストリッパーで剥きます。ヘタに長く剥こうとすると、下の紙に皺がよってうまくいきません。
シースを剥き終わったら、巻かれた紙と糸をほどきます。白黒と赤緑のツイストは、RCA プラグを取り付けられるように、両端だけほどきます。
RCA プラグは、スイッチクラフト 3502 を使っています。何十年か前にいくつかを比べてもっとも良かったものです。ただし、その時に高価な品を比べていません。「また比較しなきゃ」と、と思いつつ、そのままです。
ちなみに 3502 には金メッキタイプもありますが、ニッケルメッキに比べて若干ですが金属質の響きがあって好みではありません。
RBT20276 は、スピーカケーブルにも使っています。許容電流は 3.4 A ありますから、スペック的には余裕です。ただ、見かけは 2.6 mm の単線コイル(後方。前方の 1.8 mm コイルは使用していない)と比べてメチャ細くて頼りない。ですけど、余計な付帯音を加えることなく、録音された響きをすっきりと聞かせてくれます。
我が家では、アナログ信号はまったくシールド線を通りません。S/PDIF はシールド線を使っています。