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トランジスタの音の違い

更新日:2022年9月12日



 アンプを作り始めた頃(1970年代後半)には、トランジスタによって音が変わるなどと、考えたこともありませんでした。製作記事をみて、使われているトランジスタが販売店になければ、CQ出版社の『トランジスタ互換表』を頼りに代替品を買っていました。


 当時、トランジスタによって音が違うことを力説されていたのは金田明彦氏でした。氏の、半導体に限らずCRや電源トランスまでも指定されているアンプ記事には、アジテーションの強い文章もあいまって、徐々に“洗脳”されました。

 氏には数々の名言がありますが、なかでも「たったレコード10枚のコストをケチって、君の持つ100枚のレコードの音をつまらなくするのか!(記憶の彼方の言葉ですので、細部は異なっているでしょう)」はすばらしい。当時、レコード(黒い円盤)は、国内盤の新譜が2500~2800円、廉価版が1200~1500円、輸入盤は国内盤よりも高かった。最低賃金が1時間300円台です。


 当時すでに入手の難しかったメタルキャンの2SAなんとか(型番を忘れました)を探し回り、初段のソリトロンから終段NECの2SA627 / 2SC180までを揃え、もちろん抵抗もススムのプレート型金属皮膜、キャパシタは双信のSE、トランスはタムラのトロイダル、電線はモガミの4桁番号、を買い求めてプリとメインを作りました。

 純真な(?)私は、指定のパーツを使えばよい音がするのだと信じていました…。


 トランジスタによって音が変わることは、畏友Oのアンプで耳に焼き付けられました。抵抗もキャパシタも音を変えますが、半導体はそれ以上です。クオリティを変えます。さらには、オーディオピープル誌の久保誠氏の記事に啓発されました。トランジスタも、抵抗もキャパシタも、とっかえひっかえしました。

 そうして聞いているうちに、自分で聞くことが重要だ、と思うようになりました。


 冒頭の写真は、その頃に購入したサンプルの一部です。npnとpnpのトランジスタのコンプリメンタリ・ペアです。念のために申し添えますが「コンプリメンタリ・ペア」とは、トランジスタはhfeのばらつきが大きいため、販売店でhfeを測定して、揃えて袋に入れて売っていたモノです。

 その頃の私は、「hfeを揃えよ」との製作記事の文言を信じていましたので、試聴用のサンプルも「コンプリメンタリ・ペア」で購入していました。ステレオですから必要数は2ペアです。が、あるとき、BとEを逆にして壊したため、それからは、4ペアを購入していました。で、試聴してよくなかったら、予備の2ペアが残ってしまいます。押し入れの部品箱から、ゾロゾロと出てきました(笑)


 そうやっていろいろと試しましたが、その経験からいえることは「トランジスタは聞かなければわからない」。


 どう音が違うのか。たとえば、


・シャリシャリとか、ガサガサとか、特定帯域の強調感

・こもったような、はっきりしないような、ヴェールをかぶったような不透明感

・伸びの悪い、つまったような、リニアリティの悪さ感

・音像がふやけるような、ぼけたような混濁感


のように書き表します。


 ですが、すべて“”です。感覚であって、測定値に現れるモノではありません。それでも、せっかく作るのですから、よく聞こえるように作りたいですよね。測定データを眺めるために作るのではなく、音楽を聞くために作っているのですから。

 どこかに変な音のトランジスタ(や受動部品)が入ると、その音は、必ず聞こえてきます。その、嫌な音をなくしたい。部品の音は、回路接続を変えてもなくせません。ですから、嫌な音を出さないパーツを探します。「見つける」、じゃなかった、「聞きつける(言葉の意味が違うかな)」ですね。これは、聞いてみなければわからない。ですから、トランジスタやCやRやケーブルやトランスを、買っては聞いてきました。


 そうやって繰り返していると、少しずつですが、嫌な音は減ってきたように思います。でも、すべてはなくせないですね(苦笑)


 かつて、友人と自虐していました。「たった1個のパーツを買うために、君はレコード10枚を諦めるのか!」。両方とも諦められないから、困ったものです。


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