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電子ボリュームEVR-3を使用した

セレクタEVR

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はじめに

 複数の電子ボリュームを使って、ひとつのチャネル以外のレベルを-∞に絞れば、セレクタとして使えるはずです(第1図)。ミキシング調整卓と同じ原理です。しかし複数のオペアンプの出力を合成するためには、電流加算のためのオペアンプが必要となります。いかにMUSESオペアンプといえども、ゲインを持たない増幅段を増やしたくありません。信号系に余分な増幅段を挿入すれば、音は必ず劣化します。むかしむかし、プリとパワーの間にもう一台パワーアンプを入れて伝送すると音が良くなる、との言説を見たことがありますが、アンプを余計に買わせようとの露骨な意図が見え見えですが、それを真に受ける人がいたことにもっと驚きました。それにしても、音を聞いていっているのでしょうか。アンプとボリュームを入れて、増幅してまた絞って音が良くなるなら、オーディオなど簡単なものです。

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図1 オペアンプによる加算回路

オペアンプによる出力合成

 本題に戻ります。

 第1図の回路では、入力IN1~IN3のオペアンプ出力(V1~V3)を加算回路に入力します。加算回路はインバータ接続したオペアンプです。オペアンプのふたつの入力はヴァーチャル・ショートと呼ばれるように、フィードバックがきちんと動作していれば電位差はありません。したがって、入力信号の加算点であるオペアンプの反転入力端子の電位は 0 V です。ですから、それぞれのオペアンプ出力は、出力電圧(V1~V3)を抵抗(R1~R3)で割った電流(I1~I3)となります。電流I1~I3を加算した電流がRfを流れ(るようにオペアンプが電圧を出力することによって)、出力電圧Voとなります。ここでたとえばIN2とIN3のボリュームを-∞に絞れば、Io= I1となりますから、IN1の信号だけが出力されます。

 問題は、この電流加算のために信号がオペアンプを1個余分に通ることです。ロータリスイッチ接点による劣化とオペアンプを通過することによる劣化のどちらが大きいか。考えましたが、どちらも劣化を伴うことには変わりありません。

 さて、考えてみれば、チャネル2と3のボリュームを-∞に絞った状態では、このふたつの出力電圧は0 Vです(第2図(a))。これは等価的に抵抗の前をGNDにシャントした状態です(第2図(b))。ここで R = Rf なら、出力電圧VO = -V1です。

 ここで、ふと気付きましたが、電流加算オペアンプをなくしてもVO = nV1です(第2図(c))。n<1であり、3回路を合成なら-9.5 dB、4回路なら-12 dBです。ノイズ的に不利になりそうな気もしますが、動作はするはずです。

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第2図 信号電圧の合成

(a) オペアンプによる加算回路 (b)信号源インピーダンスが低ければ (c) 合成はこれと同じ

 ためしにEVR-3の出力に600Ωを入れて合成しますと、ちゃんとセレクタとして動作します(第3図)。ノイズも増えたようには感じません。

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​第3図 EVR-3の出力を合成する

 それでもRo = 600Ωでは、3回路で200Ωの出力インピーダンスとなります。アンプの出力インピーダンスとしては、ちょっと大きすぎる。ところがMUSES 02は強力な出力段を有しています。パラレルワールド・アンプの経験では、16回路パラレルでの4Ω負荷はさすがにキツいですが、32回路パラレルであれば聴感上の問題はありません。1回路あたりの負荷としては128Ωです。

 そう考えて、抵抗値を下げて比較試聴しました。悪くありません。試聴を繰り返し、最終的に160Ωとしました。MUSES 02にとっては、ヘッドホンをドライブするよりは軽い負荷です。また、アンプとしての出力インピーダンスは3回路で53.3Ω、4回路なら40Ωです。そこらのプリアンプよりは低い値です。伝送に問題が生じることはないでしょう。

 減衰分は増幅して補い、切り替えプログラムを作れば、セレクタEVRができそうです。EVR-3の出力抵抗を入れ替えて,出力を合成しました(写真A)。

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写真A 出力を並列にしたEVR-3-selector

入力チャネルの切り替え

 常識的には、セレクタのスイッチとVRのツマミは別々です。セレクタ用にロータリエンコーダを別に用意すれば良いのですが、リモコン生活に慣れている私は、ボリュームつまみを回すことも滅多にありません。おそらくは、セレクタつまみを回すこともほとんどないでしょう。そう思うと、新たなエンコーダ基板を起こすのがおっくうです。かといって、手動でチャネルを切り替えられないと、リモコンが行方不明になったときに困ります。

 考えたあげくですが、ボリュームツマミでチャネルセレクトもできるようにプログラムしました。1クリックだけ右か左に回し、0.5秒以内に逆方向に1クリック回したときに切り替えます。試すと操作性は悪くありません。これでいきます。

セレクタEVR

 第4図にセレクタEVRの接続を示します。3チャネルのEVR出力は、並列接続して出力端子につなぎます。EVRは、フロントパネル側からチャネル1、2、3となるようにプログラムしました。

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第4図 セレクタEVRの接続

 EVR-3は三段重ねとしています。ロータリーエンコーダを取り付けた基板のPICマイコンで、それぞれのEVRに載ったMUSES 72320をコントロールします。出力合成の際にレベルは-9.5 dBとなりますので、それぞれ-60 dB~+ 8 dBの調整範囲となるように、EVRでのゲインは-51 dB~+ 17 dBとしています。表示より出力が0.5 dBほど低くなりますが、これを合わせるプログラムは面倒なので、気にしないことにします。

 また、それぞれのEVR-3への電源供給を別トランスにしたいとも考えましたが、出力を出すのはひとつだからと自分を納得させて、本当はケースに収まらなかったから諦めたのですが、ひとつの電源としました(写真B)。なお、分けての試聴はしていません。

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写真B セレクタEVRへの電源供給

 第1表に使用部品を示します。残念ながらMUSES 7001は製造中止となりましたので、清流ダイオードにはNJD 7002を代替品としてお薦めします。また、製作するときにはSK-C35基板をお薦めします(写真C) 。ケミコンを固定するアルミアングルも不要となります。電源トランスも製造中止となっていますので、EVR-323アンプで使用しているBLOCKトランスをお薦めします。

第1表 使用部品

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写真C SK-C35ケミコン固定整流基板

特性

 第5図に周波数特性を示します。+8 dBは出力電圧が1 Vrmsとなるように入力電圧を0.25 Vrmsとしたとき、0 dBと-20 dBは入力電圧1 Vrmsでの測定です。+8 dBでは110 kHzで-0.5 dBですが、これはスルーレートの制限が現れ始めたためと思います。0 dB、-20 dBはフラットです。

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第5図 周波数特性

 第6図にひずみ特性を示します。10 kHzと20 kHzが若干高くなっていますが、これは負荷抵抗を低くしたときのMUSES 02の傾向です。0.1 %以下ですし、まあ、スピーカがこの数十倍のひずみを発生させているのですから、これを聞き分けられる人はいないと断言しましょう。

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第6図 ひずみ率特性

おわりに

 一般に、信号の切り替えにはスイッチを使用します。ご存じの通り、このスイッチによって音は劣化します。安物のロータリースイッチでは、とにかく貧弱になります。痩せてカサカサした音になります。せっかくアンプで苦労して得た音が、台無しにされてしまいます。もちろんスイッチが良くなれば、直接ワイヤを接続した音に近づきます。しかしどんなに良いロータリースイッチでも、接点の音は残ります。私でもそれは聞き分けられます。セレクタEVRは、その接点の音を消し去ります。

 そしてどんなに良いスイッチも、大気開放された接点は酸化あるいは硫化によって劣化します。長期に使用すれば固い、金属質の音がつきまとうようになります。接点を磨き、スクアランを塗布するなどのメンテナンスをしなければ、買ったときの音を保てません。EVRにはその劣化もありません。いつまでもクリアな音は曇りません。

 セレクタEVRでは、失われる音はありません。なぜなら、EVRがスイッチの役割も担うからです。本機はEVR-3 typeⅡと比較試聴しながら作りましたが、透明感のあるクッキリとした音像、自然に分離する音場感に変わりはありません。

 セレクタEVRは、おそらく理想のセレクタでしょう。コストを要することを除いては。

​(掲載 ラジオ技術2017年6月号)

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