ロータリスイッチ・リモコン化ユニット SK-RSW1搭載
セレクタEVRの製作
20年来の宿願をかなえたが・・・
20年来の宿願であったリモコンで回せるロータリスイッチ。勢いでロータリスイッチ・リモコン化ユニットSK-RSW1を作りましたが、5,000円ほどのロータリスイッチを、ときどき回すためにそれ以上のコストをかけるなんて。音がよくなるわけでもないのに…。我ながら、どうかしてますね。
でも、動き出したら止まらない。EVR-323-03-ACと組み合わせたセレクタ付き電子ボリュームを作りました。ついでですから、電源スイッチのオンオフもリモコンにしました。
リモコン化ユニットSK-RSW1
ロータリスイッチ・リモコン化ユニットSK-RSW1を写真Aに示します。43×35 mmサイズにロータリエンコーダ、赤外線受光モジュール、表示LEDをまとめました。マイクロサーボを用いて、ロータリスイッチを操作するコントローラです。
写真A SK-RSW1
SK-RSW1の部品面を写真Bに示します。電源コントロール信号入出力用に3Pコネクタを追加しました。これで電源のON/OFFもリモコンで操作できます。
写真B ロータリスイッチコントロール部とSK-RSW1部品面
回路構成
第1図に本機の信号系回路構成を示します。オーディオ的には、4入力をロータリスイッチで切り替えて、EVR-323-03-ACでアッテネートするだけです。至って単純。
第1図 信号系回路
タカチ電機UCケースの高さ50 mmを使うことに決めてかかりましたので、ロータリスイッチは内寸44 mmに収まるセイデンSD-32NEG を使います。ケースはヘッドホン・ドライバに用いたUC16-5-22では収まらず、面積を拡大してUC-26-5-18を使いました。ところが、写真Cに示すとおり隙間がいっぱいです(笑)。
写真C シャーシ全景
SD-32は、2段4回路6接点タイプを用いました(写真D)。わざわざ4回路スイッチを用いてGNDラインまで切り替えなくても、信号ラインだけを切り替えれば目的は達せます。ですけど、使わない機器のGNDを切り離したほうが、すっきりとして音にふくらみを感じるようになります。まあ、コンセントの向きをよいほうに変えたくらいの差ですけれども。
セイデンのスイッチは、ネジを緩めてストッパを動かすと任意の接点数に設定できます。本機ではスイッチには何もしないで、SK-RSW1の設定によって4接点としています。SK-RSW1はソフトウエア的に1~5接点に設定できます。フロントパネルには5個のLEDホールを空けましたが、リアパネルのRCAジャックは4回路です。
RCAジャックは、ひとつだけモガミ・ネグレックス 7552を、他は以前のアンプを解体して取り出したオーディオクラフト製を使いました。これがなんと、ロータリスイッチよりも古い。ですけど、光り輝いてますね。
写真D セレクタ回路ではGNDも切り替える
GNDも切り替えるメリット
複数の機器のGNDラインを接続したときに音質を劣化させるメカニズム、いいかえればコンセントの向きによって音が変わるメカニズムは、第2図のように考えています。電源トランス内蔵の機器では、商用電源(ACライン)に対してアンプ回路側はフローティングとします(しないと感電の危険があります!)。直流的には絶縁された状態ですが、ストレー・キャパシタンス(浮遊容量)によって、交流的には、回路GNDはACラインのコールド側(地面)に対してある電位VGNDをもちます(第2図(a))。ACライン電圧VACは交流ですから、VGNDも当然商用電源と同じ周波数の交流となります。
ここで、ストレー・キャパシタンスはアンプごとに異なります。したがって、アンプごとに対地面電位VGNDも異なります。ですから、複数のアンプを接続すれば、GNDラインに電流IGNDが流れます(第2図(b))。コンセントを差し込む向きによって、IGNDは変化し、ときには位相も逆転します。このように、機器間の電流が変化するのですから、音が違っても不思議はありません。
この考え方についてはブログ『なぜ、コンセントの向きを変えると音が変わるのか』に詳しく記しています。よろしければご覧ください。
(a) 回路GNDが地面に対して電位を持つメカニズム
(b) 機器の間にGND電流が流れるメカニズム
第2図 コンセントの向きによって音が変わるメカニズム
スイッチで入力信号を切り替えるときにGNDも切り替えれば、信号を接続していない機器からのGND電流をなくせます。このため、音的にすっきりクッキリすると考えます。
電源回路構成
第3図に電源回路構成を示します。第3図(a) は、電源スイッチにオルタネイト形を用いたときの接続です。電源スイッチはデジタル系電源基板SKEVR-VDDへのAC 100 VをON/OFFします。デジタル系電源基板SKEVR-VDDの回路を第4図に示します。トヨデンHP-510を用いた電源回路です。整流電圧をNONREG端子から、NJM7805SDL1を用いた安定化電圧を+5V端子から出力します。SKEVR-VDDから+5 Vを供給されれば、ACコントロールボードはSK-RSW1へ+5 Vを出力します。SK-RSW1は、リモコンからPOWER信号を受信すると、コントロール信号(CTRL)をACコントロールボードへと出力します。
モメンタリ形スイッチを用いたときには第3図(b)のように、SKEVR-VDDへは常時ACを接続します。つまりSK-RSW1も常時動作します。電源スイッチはSK-RSW1のPWR端子へのGND入力です。PWR信号の入力時にもSK-RSW1は、コントロール信号を出力します。
第3図(a) 電源系回路(オルタネイト形電源スイッチ使用時)
第3図(b) 電源系回路(モメンタリ形電源スイッチ使用時)
第4図 デジタル用電源基板SKEVR-VDD回路
サーボ電源とリモコンON/OFF
第5図にACコントロールボード回路を示します。ACコントロールボードは、サーボをドライブするための電気二重層キャパシタ(EDLC)回路と、アナログ系の電源トランスとEVRへのデジタル電源ON/OFF機能を備えています。
まず、EDLC回路ですが、SKEVR-VDDからの+5 Vをショットキーバリア・ダイオードSD103Aを通して5.4 V 1.5 FのEDLCに供給します。EDLCの出力には東芝フォトリレーTLP241Aを用いて、SKEVR-VDDからの+5 Vが供給されている間だけ、SK-RSW1へ電源供給します。電源スイッチをOFFにされたときは、TLP241AがEDLCからの電荷流出をストップします。これによって、EDLCは充電状態を維持します。ただしEDLCの電圧は数時間のうちに3 V台まで降下しますが、5日くらいはこの状態を保ちます。再び電源スイッチをONしたときに3 Vくらいあれば、サーボを動かすことができます。TLP241Aは受光側に2 Aまで流せますので、サーボも十分ドライブできます。
モメンタリ形のスイッチで電源をON/OFFするときには、ACコントロールボードへは常時+5 Vが供給されますからTLP241Aは不要です。EDLCの端子から直接にSK-RSW1へ接続します。
次に、アナログ系の電源トランスとEVRへのデジタル電源のON/OFFです。SK-RSW1からのコントロール信号CTRLが“L"になると、二個のTLP785とTLP222GがONになります。TLP785はそれぞれ、スイッチランプへのNON REG(約7 V)供給と、EVRへのデジタル電源供給を担当します。
ところで、いま、原稿を書いていて気づいたのですが、スイッチランプはIDECのLBスイッチの5 Vタイプに5Vを供給すると明るすぎるので12 VタイプにNON REGからの7 Vを供給したのですが、5 Vにして直列抵抗を入れればよかった。改定案を第5図改に示します。明るさを調整用の直列抵抗を設けています。
アナログ系の電源トランスは、TLP222Gから OMRON G2R-2 リレーの AC 100 V タイプを介して、ON/OFFします。ここは、メカニカルリレーではなくSSD(ソリッドステートリレー)とよばれるトライアックを用いる手もあるのですが、1品種しか試していませんがトライアックでは、ヴァイオリンの柔らかな音をガサガサにされるというか、潤いのない、荒れた音に聞こえましたので、却下です。詳しくはこちらのブログ『電源トランスをオンオフする』をご覧ください。。
なお、TLP222Gは、350 VまでをON/OFFできるフォトリレーです。よく似た型番のTLP222Aは60 Vですので、お間違いのないように。
第5図 ACコントロールボード回路
第5図改 TLP785を1個にしたACコントロールボード回路改定案
ACコントロールボードは、47×36 mmのユニバーサル基板に組みました。スルーホールタイプのユニバーサル基板を用いましたので、ピンヘッダをハンダ付けだけでしっかりと固定できます。ただし、一部のホールが取り付け穴にかなり接近しているため、配線が基板固定用スペーサに接触しそうになってしまいました。このため、絶縁ブッシュを入れて取り付けています。部品面からみた配線パターンを第6図に示します。写真EにACコントロールボードを取り付けたところを示します。
第6図 ACコントロールボードの配線(部品面より)
写真E ACコントロールボードとSKEVR-VDD
組み立て
第1表に使用部品を示します。電源スイッチはオルタネイト形とモメンタリ形の両方を示しました。いずれも12 V の照光スイッチの型番です。
つまみは、EVRには直径25 mmを、セレクタとバランスコントロール(EVR-BALCON)には直径20 mmサイズを用いました。信号系の配線にはアムトランス0.4φツイストペアを、その他にはUL3265 AWG24 を用いています。
第1表 使用部品
第7図にシャーシ加工を示します。真鍮板3t×244×160にM3の穴をタップ加工して7mmのスペーサを取り付けてます。KMH25V15000μFはSK_C35ボードに取り付けて、垂直取付ブロックCB3-8の片方のネジ穴をφ3.2に広げたものを用いてM3×10のネジでシャーシに取り付けます。ロータリスイッチとサーボを取り付けたユニットも、同じ方法でシャーシに取り付けています。
第7図 シャーシ加工
第8図にリアパネルとフロントパネルの加工を示します。パネルには、3t厚40 mm幅真鍮フラットバーをリアには245 mm、フロントには181 mmにカットしたサブパネルを、それぞれのエポキシ接着剤で貼り付けています。ただし、フロント側はIDECのスイッチの取付金具を削らないと取り付けられませんので、サブパネルは2tとしたほうが加工は楽になります。写真Fにフロントパネルとサブパネル、SK-RSW1とEVR-BALCON、EVR-323-03-ACを取り付けたところを示します。CAD図をそのままファイルにしましたので、フロントパネルは外からみた図に、リアパネルはケース内側からみた図になっています。
第8図 リア&フロントパネル加工
最初の電源投入時に、EDLCを充電するまでの 30秒くらいは動きませんが、一度充電されれば、一週間くらいは電源を入れなくても、すぐに動きます。
おわりに
電子アッテネータの入力をSD-32NEGスイッチで切り替えるだけで、電気的には前作とほとんど同じ構成です。聞いていて、音的な劣化は感じません。極めて色づけの少ないアッテネータボックスです。なによりも、切り替えるのが楽になりました!
追記
ロータリスイッチ・リモコン化ユニットSK-RSW1は、作った本人でさえ売れるとは思えないです。というわけで、あるだけで限定頒布します。もしも、ご希望がありましたら、メールにてお問い合わせください。詳しくはこちら。
追記2
シャント・レギュレータを搭載しました。さらにリアリティのある音を聞かせてくれます。また、セレクタ回りの配線も交換しました。スッキリと伸びのよい音になっています。
(掲載 ラジオ技術2021年9月号)