セレクタEVRをシャント・レギュレータ化!
やっぱりシャント・レギュレータにしたい
EVR-323では431タイプのシャント・レギュレータICで基準電圧を生成し、npnとpnpトランジスタで電圧を制御するシリーズ・レギュレータを採用しました(第1図)。制御トランジスタより上流側から基準電圧源へのフィードバックを戻す、リファレンス端子とトランジスタのベースにキャパシタを入れるなど、回路構成も追求しています。もちろん、使用パーツも厳選しました。最大消費電力2000 mWと431タイプとしては最大級(TO-92タイプでは700 mW)のNJM 7400を基準電圧に、制御用トランジスタには信号系に用いてもクッキリとした音を聞かせてくれる東芝2SC2120 / 2SA950を使用しました。
第1図 EVR-323レギュレータ回路
ただ、欲をいえば、レギュレータはシャント方式としたかった。シリーズ方式と比べシャント方式は、しっかりとした音像感、実在感を聞かせてくれます。じつは、EVR-323を作るときにかなり考えたのですが、どう計算しても抵抗値の調整なしに実用的な入力電圧範囲を確保することは無理でした。さらには、EVRでは放熱が難しい。基板にドカンとヒートシンクを取り付けるのはためらわれます。EVRとしての使いやすさを優先しました。
その後に、シャント・レギュレータ基板SKVL-5(写真A)を開発しました。ヘッドホン・ドライバに用いましたが、広い音場にクッキリ明確な音像感を聞かせてくれます。
やはり、セレクタEVRもシャント・レギュレータで聞きたいところです。
写真A SKVL-5 シャント・レギュレータ基板
シャント・レギュレータの設計
第2図にセレクタEVRのAC入力電圧を90~110 Vとしたときの整流電圧を示します。比較のために無負荷での電圧も示します。25 Vのケミコンを使っていますので、無負荷でのAC 105 V以上は測っていません。
第2図 セレクタEVRのAC入力電圧対整流電圧特性
BLOCK FL 6/15トランスの平均整流電圧対電流特性(第3図)からは、無信号時の消費電流は35 mAくらいと読み取れます。MUSES 72323と2個のMUSES 03、リレーとLEDに電流供給していますので、こんなものでしょう。
第3図 FL 6/15トランスの平均整流電圧対電流特性
セレクタEVRの最大出力を600 Ω負荷で2.0 Vrmsとします。負荷抵抗を重めの510 Ωとして100 Hzを出力して測りましたが、電源電圧は0.1 Vくらい下がるだけです。計算上の電源電流は約4 mA増えますから35 + 4 = 39 mA。これに15 %の余裕を見込んで、小数点以下を切り上げた45 mAをシャント・レギュレータの最大電流とします。
レギュレータの電圧は、できるだけ高く設定したいところです。オペアンプMUSES 03も電子ボリューム MUSES 72323も、電源電圧を高くしたほうがクッキリとした音になります。それぞれ推奨電圧範囲は±18 Vまでですので、E24系列の1 %精度の抵抗値とNJM 7400の標準値と最高値をにらんで36 kΩ-6.2 kΩとしました。標準値で16.85 V、最高値で17.67 Vです。ただしこれは、最悪の組み合わせでの計算値です。金属皮膜抵抗の誤差は、概ね規格誤差範囲の1/3未満ですから、そこまで高くなることはないでしょう。
AC電源電圧は、90 V~110 Vを設計動作範囲と考えます。AC 90 Vでの整流電圧は±18.8 Vですから、シャント・レギュレータの設定電圧が標準値の+2%で±17.19 Vと考えれば(17.67 Vまでは上がらないだろうと見越して)、電圧は1.61 Vです。これを45 mAで割れば、直列抵抗は 35.7 Ω以下と計算されます。E24系列から33 Ωを選びます。もしもレギュレータ出力電圧が最大の17.67 Vであっても、AC電圧が93 V あれば足りる計算です。よしとしましょう。
一方、電源電圧がAC 110 Vと高くてシャント・レギュレータ電圧が16.20 Vと低いときを考えます。FL6/15のレギュレーションを計算に入れると整流電圧は約±19.5 V、直列抵抗33 Ωなら電流は100 mAです。このときのシャント抵抗での消費電力は0.33 W。容量1 Wでも足りますが、1/2 Wの金属皮膜抵抗を2本並列にするよりも音がよかった3 WのNS-2Bとします。
それから、シャント・トランジスタのコレクタ抵抗は、16 Vで100 mAを流すと考えれば160 Ω以下が条件です。ここは150 Ωとしました。こちらの最大消費電力は1.5 Wです。ここも大きな抵抗としたほうが音的にクッキリとしますので、NS-5を使います。
以上、シャント・レギュレータ回路を第4図に示します。
第4図 シャント・レギュレータ回路
組み込み
シャント・レギュレータはSKVL-5基板に組みました。8 mmサイズの垂直取付ブロック(秋月電子、CB3-8)を用いてSKVL-5を取り付けました。シャーシ穴図を第5図に示します。ところが、ネジを回そうとしてNS-2Bとドライバが干渉することに気づきました。このため、NS-2Bの足を曲げて取り付けました(写真B)。みっともない。基板を修正しなきゃ。
第5図 SKVL-5垂直取付穴位置
写真B SKVL-5の取り付け状況
EVR側にはレギュレータは不要ですので、レギュレータなしタイプ EVR-323OS-03-R0を作りました(写真C)。EVR-323/320のレギュレータ付き -AC または -NC タイプを購入された方でシャント・レギュレータを試されたい方は、メールにてご連絡ください。レギュレータなしボードを進呈します。
写真C EVR-323OS-03-R0
写真Dにシャーシ全景を示します。シャント方式とシリーズ方式の比較試聴のため、元々の電源ソケットを残したままSKVL-5からも電源ソケットを引き出しています。でも、戻して聞くことはないでしょう。それだけの差があります。
また、ACコントロールボードの基板を作りました。これは音には関係ない。
それから、セレクタ回りの配線を2回も交換しました。これは音に大きく影響します。
写真D シャーシ全景
シャント・レギュレータの音
とにかく、実在感のよさ。これがシャント・レギュレータの音です。ヘッドホン・ドライバ製作記では、『音質がクリアとか音像がクッキリしているとか響きがよいとか個別にいうことはなく、演奏会場ではこんな風に聞こえるのだ、とわかるような感じです』と記しましたが、その透明感を支えているのがシャント・レギュレータです。
シリーズ・レギュレータ(それも、何通りもの回路方式を比較してたどり着いた)と比べ、覆いかぶさる制御トランジスタの音をなくしたからでしょうか、コンサートホールでの、それもトップクラスの奏者を近くで聞いたときに伝わってくる、奏者の息づかい指づかいが、感じられるかのようです。無論、再生装置でその音を出すことはかないませんが、それでも、わずかですが、こういう音を奏でているのだろうなあと思わせてくれます。
元には戻せません。
(掲載 ラジオ技術2021年11月号)